△~triangle~

それは……バイオリンだった。

手入れの行き届いた、綺麗なバイオリン。

父はそれを真っ直ぐに私へと向かって差し出している。

たったそれだけで、今の私には父の考えが、そして父の《心》が分かった様な気がした。

差し出されたバイオリンを受け取り、それをそっと構える。

不自由な左手は少し指を動かしただけでも、酷い痛みを私に訴える。

しかしその痛みを無視して、思い切って弓を引いた。

すると私の望んだ音とは程遠い、不快な音が辺りに響く。
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