リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「なにしてんだよ、そんなとこで」

風邪引くだろう。
そう言って上半身を起こした牧野は、明子の腕を引くようにしてソファーに座らせると、冷えたその体を抱きしめた。

「具合でも悪いのか?」

いつからそうしていたのか、思いかけず冷たいその体に牧野は驚き、心配げにそう問いかけると、明子は小さく何度も首を横に振って、違うと告げる。

「小杉」

ちゃんと説明してくれ。
明子を腕の中に引き寄せて耳元で囁くようにして、そんなところにうずくまっていた理由を教えてくれと、牧野は明子に優しく強請る。

「……、一人なら」

ややあって、静々と明子は声を発した。

「一人の部屋なら、怖くない。でも、誰かがいると、怖くて眠れない」
「怖い?」

なにも怖いことなんてしないと、笑ってそう言い聞かせようとした言葉は、続く明子の言葉で遮られた。

「起きて、一人ぼっちだったら、怖い。朝がきて目が覚めたとき、そこにいたはずの人が、いなくなっているかもしれないって。そう思ったら、怖くて眠れない」

昔から、ずっと、そうなんです。
静かな声で告げられた言葉に、牧野は言葉を告げるより先に、その体をきつく強く抱きしめた。
ずっと、そんな寂しさを胸に宿していたのかと、そう思っただけで、自分までもが泣きだしそうになった。

怖いとそう言い続ける明子を、牧野はただただ静かに抱きしめ続けた。

明子の様子が落ち着いたのを見て、牧野の立ち上がって明子の手をとった。
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