リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「ほれ、寝るぞ」

一緒に寝よう。
優しくそう告げて、自分が被っていた毛布で明子を包み込み、まだ牧野の温もりが残っている掛け布団と枕を抱えるように持つと、牧野は明子の手を引いた。
牧野に先導されるように、明子は大人しく、その後に続く。

ちらりと窺うように覗いたけれど、入ることは躊躇われて足を踏み込むことができなかった寝室に、牧野は足を踏み入れた。

標準より少し大きな体にはちょっと小さなベットだったが、ソファーよりは大きそうだから大丈夫だろうと、牧野はそのベットに腰を下ろして明子を引き寄せた。

「一緒に寝よ。な?」

目か覚めても、ぜったいに、隣にいるから大丈夫だ。
まだ冷たい明子の耳元に近づけた唇でそう囁くと、すっかり明子の温もりが消えているベットに持ってきた布団を広げた。
明子の枕と自分の枕を並べると、牧野は楽しそうにそのベット潜り込んだ。

「ほら。来いよ。俺も一人じゃ寒いって」

一緒に眠ろう。
暗い暗い闇の中で、牧野は優しい声で明子を呼んだ。
その声に誘われるように、明子もするりとベットに潜り込んだ。

触れた明子のつま先はひんやりとして温もりがなかった。
バカだな、いつからあんなところに座っていたんだと、牧野は明子の冷たい髪を撫でながら、自分の足を湯たんぽだと言って明子の足に押し付けた。

「あったかい」

怯えて泣いている子どものような、小さく弱々しいその声に、牧野の胸が締めつけられる。
判っていたのに、明子の包み込んでくれる強さばかりを見ていた自分に、牧野は情けなさを覚える。
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