リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
自分の弱さもちゃんと打ち明けていたのに、それでもまだ自分のことで手一杯で、明子を受け止めてきれていなかったことにようやく気づいて、牧野は悔やんだ。


-大丈夫。
-側にいるから。


囁く声で何度も明子にそう言い聞かせて、その手をぎゅっと握り締める。

おずおずと、明子も牧野のその手を握り返してきた。

「こんな夜中に、どこにも行かないから安心しろ」
「はい」
「ちゃんと寝ろよ。な?」

俺も寝る。
静かな静かな夜に溶けていきそうな囁きでそう告げる牧野に、明子はこくりと頷いたようだった。


(お前の寂しいも)
(お前の悲しいも)
(今度は丸ごと全部、抱きしめるから)
(だから、側にいてくれ)


まだ浅い明子の寝息を聞きながら、牧野はそんなことを心の中で明子に語り続けた。
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