リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
厄介だと思いつつも、今後の対応を思案している野木の声に、明子も「どうしましようねえ」と、思案顔で答えて考え込んだ。
珍しく、始業時刻前に席に着いていた幸恵は、仕事をしているようにも見えた。
傍から眺めていた限りでは、キーボードを一心不乱という様子で叩きながら、パソコンに向かっていた。
昨日は、もう、あの子のことは諦めようと思った。
けれど、一夜明けて、幸恵のそんな姿を見てしまうと、もう少しだけ、根気強く様子を見てあげればこの子も変わるかもしれないと、そんな期待が胸の中に湧いてきた。
言葉を選んでいるようなゆっくりとした口調で、明子は自分の考えを野木に告げる。
「一応。牧野課長には、今日の様子を見て相談したいと言ってあるんで、今日一日、彼女の様子をみていたいと思っているんですけど」
明子の言葉に、野木は即座に「判りました」と小さく頷いた。
「丸投げしてしまって申し訳ないんですけど、その辺りの判断は小杉主任にお任せします。まあ、今日みたいに大人しくしてくれていれば、邪魔にはなりませんしね」
正直、仕事に関しては期待していないしと、静かに続いた野木の声には、これからの幸恵に対する期待感などは、まったく込められてなかった。
沼田からも、なんの反応もなかった。
そんな二人の様子に、明子の口から小さなため息がこぼれた。
今まで、彼らはイヤと言うほど辛酸を舐めてきたのかもしれないと思うと、この一件で幸恵に変化が現れたとしても、もはや、このままシステム部に残るのは難しい状況なのかもしれないと、明子は痛感した。
「まあ、川田たちも、ちょっとまいっているみたいですから、ほどほどにしてください。みんなで疲れちまったら、仕事になりませんから」
「そうですね」
気をつけますと野木の言葉に答えながら、昨日、思いがけず立ち聞きしてしまった野木や川田たちの会話を思い出した明子は、少しだけ憂鬱な気分になった。
(表面的には、こうやって普通に話してくれているけど……)
(扱いづらいとか思われてるのかな。やっぱり)
川田たちへの気遣いはあるものの、幸恵と直接対峙している明子に対する気遣いは、野木の言葉には感じられなかった。
仕事なのだからという気持ちがあってのことなのかもしれないけれど、必要以上に自分とは関わらないようにしているのかもしれない。
そんな思惑が野木の態度からは感じられ、気が重くなる。
珍しく、始業時刻前に席に着いていた幸恵は、仕事をしているようにも見えた。
傍から眺めていた限りでは、キーボードを一心不乱という様子で叩きながら、パソコンに向かっていた。
昨日は、もう、あの子のことは諦めようと思った。
けれど、一夜明けて、幸恵のそんな姿を見てしまうと、もう少しだけ、根気強く様子を見てあげればこの子も変わるかもしれないと、そんな期待が胸の中に湧いてきた。
言葉を選んでいるようなゆっくりとした口調で、明子は自分の考えを野木に告げる。
「一応。牧野課長には、今日の様子を見て相談したいと言ってあるんで、今日一日、彼女の様子をみていたいと思っているんですけど」
明子の言葉に、野木は即座に「判りました」と小さく頷いた。
「丸投げしてしまって申し訳ないんですけど、その辺りの判断は小杉主任にお任せします。まあ、今日みたいに大人しくしてくれていれば、邪魔にはなりませんしね」
正直、仕事に関しては期待していないしと、静かに続いた野木の声には、これからの幸恵に対する期待感などは、まったく込められてなかった。
沼田からも、なんの反応もなかった。
そんな二人の様子に、明子の口から小さなため息がこぼれた。
今まで、彼らはイヤと言うほど辛酸を舐めてきたのかもしれないと思うと、この一件で幸恵に変化が現れたとしても、もはや、このままシステム部に残るのは難しい状況なのかもしれないと、明子は痛感した。
「まあ、川田たちも、ちょっとまいっているみたいですから、ほどほどにしてください。みんなで疲れちまったら、仕事になりませんから」
「そうですね」
気をつけますと野木の言葉に答えながら、昨日、思いがけず立ち聞きしてしまった野木や川田たちの会話を思い出した明子は、少しだけ憂鬱な気分になった。
(表面的には、こうやって普通に話してくれているけど……)
(扱いづらいとか思われてるのかな。やっぱり)
川田たちへの気遣いはあるものの、幸恵と直接対峙している明子に対する気遣いは、野木の言葉には感じられなかった。
仕事なのだからという気持ちがあってのことなのかもしれないけれど、必要以上に自分とは関わらないようにしているのかもしれない。
そんな思惑が野木の態度からは感じられ、気が重くなる。