リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
林田派のレッテルは、やはり荷が重いと、明子は改めてそれを実感した。
明子にはそんなつもりは毛頭ないが、そう思われていることを現実的にこうして実感してしまった以上、これからは用心しなければならない。
牧野とこういう関係になった以上、明子の言動は、牧野にも波及する可能性は高い。
牧野が密かに手を組んでいる相手を知っているだけに、牧野を妙なことに巻き込んでしまうと、それはそれで面倒だった。


(派閥って……、いやー)
(面倒くさいー)
(ボンボンさまー)
(早く、さっさと戻ってきてー)
(助けてくださーい)


牧野がボンボンと親しげに呼ぶ、今はアメリカにいるはずの人物のことを思い浮かべて、明子はその胸中で助けを求めた。
もう久しく顔も見ていないけれど、あの人のことだから、アメリカでもやりたい放題で元気にしているに違いない。
そんな姿を想像しながら、ふと、昨日、牧野派などと言ったことを明子は唐突に思い出した。
もしかしたら、あれも噂が急速に広まってしまった一因なのかなと思うと、ちょっと迂闊なことを言ってしまったかなと、今になって少しだけ、それが悔やまれた。
言ったあの言葉に嘘はない。
けれど、言い方を間違えるとさらなる敵を作りかねないと、明子は自分を窘めて、迂闊なことはしちゃダメと、改めて肝に命じた。

「小杉主任も、昨日は疲れたでしょう。あいつに一日まとわりつかれて」

それまで無言だった沼田が、そんな言葉を明子に投げてきた。

「私は、上からやれと言われての仕事なんで。木村くんのほうが大変かも。同期の桜なんで我慢しますって、笑ってくれたけど」
「木村らしいですね。今までもいろいろ嫌な思いしてるのに」

沼田の言葉に、以前、小林から聞いたことを明子は思い出した。
仕事を教えてやろうとしている木村に、髄分なことをしていたらしいと小林は言っていた。
幸恵もその中の一人なのだとしたら、なんて情けない話しだろうと、明子はまた憂鬱になる。
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