リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「木村。去年、お嬢様方と揉めていたことは知ってますか?」
「詳しく聞いてないけど、木村くん、かなり大変だったって」
小林が言っていた一件だろうと思いつつ、いきなり変わったその話題に、明子は眉を潜めつつ耳を傾けた。
「木村の言うことなんか聞きもしないで、あいつら、ずっと好き勝手なことやっていたんですけどね、去年の夏ごろ、木村が坂下と野々村のこと、社内で殴っちまったんですよ」
「え?」
すっと、明子は顔から表情が消えた。
愕然なる。
まさに、そんな心境だった。
喉を鳴らして、どうしてと、明子はその理由を尋ねた。
あの木村が、人に手を上げるなど信じられなかった。
「殴った木村が、だれが尋ねてもその理由を言わないんで、ちょっとマズい事態になりそうだったんですけどね、渡辺とか周りにいた連中が、木村が二人を殴る直前に、あいつらこんなことを言っていたんですけどって、その会話の内容を教えてくれて」
野木の声が、次第に抑揚のない冷ややかで平坦にものに変わっていく気配に、明子も言いようのない緊張を覚えた。
ハンドルに握る沼田の手にも、力が入っているようだった。
「それを聞いたら、今度は牧野さんや小林さんまで怒り出して。俺、牧野さんがあんなに本気で怒るところ、初めてみましたよ」
「……なにを、言ったの?」
静かな声で、明子はその答えを求めた。
告げられた言葉が、明子は耳の奥で、耳鳴りのように響き続けた。
「詳しく聞いてないけど、木村くん、かなり大変だったって」
小林が言っていた一件だろうと思いつつ、いきなり変わったその話題に、明子は眉を潜めつつ耳を傾けた。
「木村の言うことなんか聞きもしないで、あいつら、ずっと好き勝手なことやっていたんですけどね、去年の夏ごろ、木村が坂下と野々村のこと、社内で殴っちまったんですよ」
「え?」
すっと、明子は顔から表情が消えた。
愕然なる。
まさに、そんな心境だった。
喉を鳴らして、どうしてと、明子はその理由を尋ねた。
あの木村が、人に手を上げるなど信じられなかった。
「殴った木村が、だれが尋ねてもその理由を言わないんで、ちょっとマズい事態になりそうだったんですけどね、渡辺とか周りにいた連中が、木村が二人を殴る直前に、あいつらこんなことを言っていたんですけどって、その会話の内容を教えてくれて」
野木の声が、次第に抑揚のない冷ややかで平坦にものに変わっていく気配に、明子も言いようのない緊張を覚えた。
ハンドルに握る沼田の手にも、力が入っているようだった。
「それを聞いたら、今度は牧野さんや小林さんまで怒り出して。俺、牧野さんがあんなに本気で怒るところ、初めてみましたよ」
「……なにを、言ったの?」
静かな声で、明子はその答えを求めた。
告げられた言葉が、明子は耳の奥で、耳鳴りのように響き続けた。