リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
鬱々とした気持ちのまま、野木たちの後に続いて、明子はいつもの会議室に入った。
約束の時間より、早めの到着であったにも関わらず、室内では見覚えのある後ろ姿が、窓の外を見ながら佇んでいた。
-会長さんか?
野木が声を潜めて、隣の沼田に耳打ちするように確認していた。
小柄だが存在感のあるその後ろ姿を見て、明子も気持ちを引き締め直した。
(お仕事お仕事。気持ち切り替えて、ね)
(まずは、お仕事よ)
(今日こそは、こちらの名刺を、ちゃんとお渡ししないとね)
(長い付き合いにあるかも、だし)
入室した明子たちに、元会長と呼ばれる小柄な老人がくるりと振り返り、明子たちを見た。
「おはようございます。今日も、お世話になります。よろしくお願いします」
「なんのなんの。こちらこそ、よろしく」
穏やかな声で人の良さそうな笑みを湛えたパンチパーマの老人に、明子のその頬にも、にこりという笑みが自然に浮かんだ。
「先日は、ご挨拶も致しませんで、失礼致しました」
頭を下げつつ野木を目で促して、明子は老人の元へと近づいた。
「ご挨拶が遅れましたが、今回のプロジェクトを担当させていただいてます、小杉と申します」
名刺を差し出しつつそう挨拶をして、初顔の野木のことも老人に紹介した。
「大塚に変わって、これからこちらのプロジェクトを、担当させていただくことになりました野木です」
「野木です。途中からの交代で、大変なご迷惑をおかけしてしまいましたが、よろしくお願いします」
「ワシはもう、引退したただの年寄りだから、そんな丁寧な挨拶いらんよ。名刺もないもんでな、申し訳ない」
二人からの名刺を両手で受けてじっくりと眺めたあと、丁寧にそれを懐に仕舞う老人を見ながら、明子は牧野からの伝言を伝えた。
約束の時間より、早めの到着であったにも関わらず、室内では見覚えのある後ろ姿が、窓の外を見ながら佇んでいた。
-会長さんか?
野木が声を潜めて、隣の沼田に耳打ちするように確認していた。
小柄だが存在感のあるその後ろ姿を見て、明子も気持ちを引き締め直した。
(お仕事お仕事。気持ち切り替えて、ね)
(まずは、お仕事よ)
(今日こそは、こちらの名刺を、ちゃんとお渡ししないとね)
(長い付き合いにあるかも、だし)
入室した明子たちに、元会長と呼ばれる小柄な老人がくるりと振り返り、明子たちを見た。
「おはようございます。今日も、お世話になります。よろしくお願いします」
「なんのなんの。こちらこそ、よろしく」
穏やかな声で人の良さそうな笑みを湛えたパンチパーマの老人に、明子のその頬にも、にこりという笑みが自然に浮かんだ。
「先日は、ご挨拶も致しませんで、失礼致しました」
頭を下げつつ野木を目で促して、明子は老人の元へと近づいた。
「ご挨拶が遅れましたが、今回のプロジェクトを担当させていただいてます、小杉と申します」
名刺を差し出しつつそう挨拶をして、初顔の野木のことも老人に紹介した。
「大塚に変わって、これからこちらのプロジェクトを、担当させていただくことになりました野木です」
「野木です。途中からの交代で、大変なご迷惑をおかけしてしまいましたが、よろしくお願いします」
「ワシはもう、引退したただの年寄りだから、そんな丁寧な挨拶いらんよ。名刺もないもんでな、申し訳ない」
二人からの名刺を両手で受けてじっくりと眺めたあと、丁寧にそれを懐に仕舞う老人を見ながら、明子は牧野からの伝言を伝えた。