リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「牧野とは、同期で入社しました」
「ほう。それじゃあ、長いな」
彼が寄越してくれるくらいだ、優秀なんだろうなあと、頭一つくらいは低い場所から明子を見上げている老人に、いえ、とんでもないと、明子は手を振った。
「近く、その牧野と結婚する予定なんです、彼女」
席に着いた野木が、さらりとそんな爆弾を投下して、明子は膝から崩れ落ちそうになった。
(の、野木さんっ)
(なにか私に恨みでも?)
(なんの報復ですか? それはっ)
(勘弁してっ)
(まだ、そんな話しは……、まあ、なくもないけど)
(いやいやいや。そうじゃなくてってですね)
(どうして、今、この人にそれをっ)
やや頬を引き攣らせた顔で、目の前の老人に愛想笑いを浮かべて見せると、真顔になった老人は何度も目を瞬かせて、明子を見ていた。
ややあってから「そうかそうか、再婚するか、それはよかった」と、心の底から安心したように笑って、嬉しそうにそう呟いた。
(なんか、もう……)
(後に引けなくなった気分だわ)
なにもかもが、一気に急転直下の勢いで動いていく気配に、少し前、松山が明子に言って聞かせた言葉を思い出した。
-三十路の恋愛は、進むのが早いよ。
-スタートラインに立って、一歩踏み出したら、もうゴールにいる感じだよ。
-小杉さんも、今度、誰かとちゃんと付き合いだしたら、一気に結婚じゃないかな。
このことを言っていたのかと、思い出したその言葉に、明子も納得するしかなかった。
「ほう。それじゃあ、長いな」
彼が寄越してくれるくらいだ、優秀なんだろうなあと、頭一つくらいは低い場所から明子を見上げている老人に、いえ、とんでもないと、明子は手を振った。
「近く、その牧野と結婚する予定なんです、彼女」
席に着いた野木が、さらりとそんな爆弾を投下して、明子は膝から崩れ落ちそうになった。
(の、野木さんっ)
(なにか私に恨みでも?)
(なんの報復ですか? それはっ)
(勘弁してっ)
(まだ、そんな話しは……、まあ、なくもないけど)
(いやいやいや。そうじゃなくてってですね)
(どうして、今、この人にそれをっ)
やや頬を引き攣らせた顔で、目の前の老人に愛想笑いを浮かべて見せると、真顔になった老人は何度も目を瞬かせて、明子を見ていた。
ややあってから「そうかそうか、再婚するか、それはよかった」と、心の底から安心したように笑って、嬉しそうにそう呟いた。
(なんか、もう……)
(後に引けなくなった気分だわ)
なにもかもが、一気に急転直下の勢いで動いていく気配に、少し前、松山が明子に言って聞かせた言葉を思い出した。
-三十路の恋愛は、進むのが早いよ。
-スタートラインに立って、一歩踏み出したら、もうゴールにいる感じだよ。
-小杉さんも、今度、誰かとちゃんと付き合いだしたら、一気に結婚じゃないかな。
このことを言っていたのかと、思い出したその言葉に、明子も納得するしかなかった。