リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「興味があるから、見にきたんだろ。悪かったよ。茶化して」
怒らせてしまった明子の機嫌をとろうとして、それに失敗したことを悟った牧野は、困ったなというように頭を掻いていた。
そんな牧野に、珍しいこともあるもんだわねと胸の内で呟いた明子は、ふうっと、一つ息を吐いた。
(バカ牧野に、本気で腹を立ててもしょうがないわね)
(昔から、こういう人だもんね)
(こうやって謝ってきただけ、いつもよりかはマシだしね)
そんなふうに割り切って、明子はいつもの口調で話し始めた。
「高校生くらいのころは、祖父と、ときどき、山を登ったりしてたんですよ」
「へえ」
意外だなと言うように、牧野はそんな相槌を打つ。
その顔は、機嫌を直した明子に安堵したかのようだった。
「テレビで山を登っている人を見ていたら、なんか懐かしくなって。店の前を通ったら、登山用品のセールをやっているみたいだったんで、ちょっと、見てみようかなって」
「どこら辺、登っていたんだ?」
「え?」
「山」
あまりにも簡潔なその問いかけに、明子はくすりと笑った。
「そんな大したところは登ってないですよ。筑波とか、高尾とか。ああ。尾瀬も行きましたね。あとは、三頭山とか」
「いろいろと行ってるじゃないか。高尾は何号線で登っていたんだ?」
「コースにそんな名前あるんですか? 知らなかった。いつも、祖父に付いていっただけだったんで。金毘羅台から見る景色が好きで、いつもそこは歩いてましたけど」
「へえ」
牧野は感嘆の声を上げ、明子をまじまじと見た。
「なんですか? なにか、変なこと言いましたか?」
「いや。大したもんだなって。金毘羅台のほう回るんじゃ、ケーブルカー使わないで登ってたんだろ。あそこ行くだけでも、四十分ぐらいは歩くだろ」
「そうですね。春先は山頂から甲州街道のほうに回って。梅がきれいだったなあ」
懐かしい思い出に浸るように、目を細めて空を見詰めている明子に、牧野は「へえっ」と、また小さく感嘆の声を上げ、明子を眺めた。
怒らせてしまった明子の機嫌をとろうとして、それに失敗したことを悟った牧野は、困ったなというように頭を掻いていた。
そんな牧野に、珍しいこともあるもんだわねと胸の内で呟いた明子は、ふうっと、一つ息を吐いた。
(バカ牧野に、本気で腹を立ててもしょうがないわね)
(昔から、こういう人だもんね)
(こうやって謝ってきただけ、いつもよりかはマシだしね)
そんなふうに割り切って、明子はいつもの口調で話し始めた。
「高校生くらいのころは、祖父と、ときどき、山を登ったりしてたんですよ」
「へえ」
意外だなと言うように、牧野はそんな相槌を打つ。
その顔は、機嫌を直した明子に安堵したかのようだった。
「テレビで山を登っている人を見ていたら、なんか懐かしくなって。店の前を通ったら、登山用品のセールをやっているみたいだったんで、ちょっと、見てみようかなって」
「どこら辺、登っていたんだ?」
「え?」
「山」
あまりにも簡潔なその問いかけに、明子はくすりと笑った。
「そんな大したところは登ってないですよ。筑波とか、高尾とか。ああ。尾瀬も行きましたね。あとは、三頭山とか」
「いろいろと行ってるじゃないか。高尾は何号線で登っていたんだ?」
「コースにそんな名前あるんですか? 知らなかった。いつも、祖父に付いていっただけだったんで。金毘羅台から見る景色が好きで、いつもそこは歩いてましたけど」
「へえ」
牧野は感嘆の声を上げ、明子をまじまじと見た。
「なんですか? なにか、変なこと言いましたか?」
「いや。大したもんだなって。金毘羅台のほう回るんじゃ、ケーブルカー使わないで登ってたんだろ。あそこ行くだけでも、四十分ぐらいは歩くだろ」
「そうですね。春先は山頂から甲州街道のほうに回って。梅がきれいだったなあ」
懐かしい思い出に浸るように、目を細めて空を見詰めている明子に、牧野は「へえっ」と、また小さく感嘆の声を上げ、明子を眺めた。