リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「行ってみるか、高尾」
「はい?」
突然、牧野にそう切り出されて、明子は謎の未確認生物でも見つけたような驚きの顔で、牧野を見た。
「なんだよ、その顔は?」
「いえ。なんか。空耳だったかな?」
「高尾に行ってみるかって、聞いたんだ」
聞き違いではなかったその言葉に、明子はわざとらしく空惚けた。
「高尾のほうに、ウチの会社のお客さん、いましたっけ?」
「いたら、俺は毎日でも通ってやるよ。いっそ、出向扱いで出させてくれって会社に言うな」
明子の軽口に合わせて、そんな惚けたことを言う牧野に、明子は笑みをこぼした。
「お前。成人病は引っかかってないよな?」
またそういうことを言いますかと、明子は浮かんでいた笑みを引っ込め、横目で牧野をじろりと睨んだ。
明子のその目に、牧野は珍しく嫌味じゃねえと弁解した。
「その手の疾患あるやつは、あんまりよくないんだよ、登山は」
「一応。大丈夫です。まあ、かなり要注意度高い予備軍かとは思いますけどね」
春先より、さらに増えていた体重を思い出し、明子はげんなりした。
今年の春はなんとか再検査は免れたけど、もし、このまま、ずっと放置していたら、今度の春には再検査の封筒が添えられていたに違いない。
(危なかった)
(本当に、決意させてくれてありがとう)
(文隆くん、もとい、関ちゃん)
牧野がいることを忘れ、いつものように妄想のかなたに飛んでいきそうだった意識を、明子は慌てて引き寄せた。
「はい?」
突然、牧野にそう切り出されて、明子は謎の未確認生物でも見つけたような驚きの顔で、牧野を見た。
「なんだよ、その顔は?」
「いえ。なんか。空耳だったかな?」
「高尾に行ってみるかって、聞いたんだ」
聞き違いではなかったその言葉に、明子はわざとらしく空惚けた。
「高尾のほうに、ウチの会社のお客さん、いましたっけ?」
「いたら、俺は毎日でも通ってやるよ。いっそ、出向扱いで出させてくれって会社に言うな」
明子の軽口に合わせて、そんな惚けたことを言う牧野に、明子は笑みをこぼした。
「お前。成人病は引っかかってないよな?」
またそういうことを言いますかと、明子は浮かんでいた笑みを引っ込め、横目で牧野をじろりと睨んだ。
明子のその目に、牧野は珍しく嫌味じゃねえと弁解した。
「その手の疾患あるやつは、あんまりよくないんだよ、登山は」
「一応。大丈夫です。まあ、かなり要注意度高い予備軍かとは思いますけどね」
春先より、さらに増えていた体重を思い出し、明子はげんなりした。
今年の春はなんとか再検査は免れたけど、もし、このまま、ずっと放置していたら、今度の春には再検査の封筒が添えられていたに違いない。
(危なかった)
(本当に、決意させてくれてありがとう)
(文隆くん、もとい、関ちゃん)
牧野がいることを忘れ、いつものように妄想のかなたに飛んでいきそうだった意識を、明子は慌てて引き寄せた。