リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
テーブルの上。
空になったスナック菓子の袋が二つに、食べ尽くしたプリンの容器が一つ。
その他、食べ散らかし途中のチーズやら、さきイカやらのお酒のつまみが拡散中。
空になった缶ビールは、すでに三本。
四本目は、プルトップが開いた状態で明子の右手にあった。

部屋の中。
辛うじて、足の踏み場はあるけれど、とても人を招ける部屋ではない。
今は、ちょっと小さくなって着られなくなっている服とか。
『売れています』という評判につられて買ったダイエット本やら。
何年も使っていないテニスラケットやタンベルなどなど。
買ったはいいがどうしようもない、ほぼ持ち腐れ状態で放置されているものが、崩れかかった山になって積みあがっている。
しかも、それらを覆っているのは、吹けば舞うような埃。

そして、何よりも目を背けたい。
自分自身。

パンツの上に乗っかった『贅肉』という名の脂肪の塊。
ぶよぶよでタプタプの肉塊。
最近、張りもなくなり、垂れ下がり始めているような気がする胸よりも、間違いなく突き出ているお腹。
臍の下の腹部だけでなく、鳩尾あたりから足の付け根あたりまで、みっちりとした肉が襦袢のように巻きついている。

お腹だけではない。
太腿にも、背中にも。
どこもかもだ。


(『肉襦袢』って言葉を、考えた人って、マジで、すごいよね)


そんな、場当たり的かつ見当違いなことを考えて、そんな言葉に思い切り感心している自分を、明子はこらと窘めた。


(だからっ)
(これを、現実逃避って言うのよ、バカ)
(『現実』から目を背けてきた、この四年と七か月のツケを、しっかり見なってば)


この体こそが、言い訳と甘えで堕落してきた現実から目を背け続けた、四年と七か月ちょっとの間の最大のツケだった。


明子は、大きく一つ、重い息を吐き出した。
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