リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「いつまでも」

突然のことに、小さな悲鳴を上げて驚く明子の耳に、牧野のピンと張り詰めた静かな緊張感が感じられる声が、届いた。
それは初めて聞くような、夜の闇にも似た低く静かな声だった。

「いつまでも、そんなところで、立ち止まってるな。上がってこい」

ここまで、来い。
明子には目を向けず、まっすぐ前を見つめたまま、牧野は明子の腕に掴んだその手に、さらに力を込めた。

それは、きれいな、きれいな横顔だった。

握りしめられたその痛みに、ほんのわずか、明子は顔をしかめたが、耐えた。
耐えて、その横顔を見つめ続けた。

「使えるものは、なんでも使ってこい。部長の顔でも……、俺の名前でも」

使って、仕切ってこい。
少しだけ、まるで、時間が止まったような、そんな静寂が二人を包んだ。
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