リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
ややあって、牧野はふぅっと息を吐き出して、するりと明子の腕を放した。

「明日は、もう少し、顔を作って行けよ、お前」

明子に向けた牧野なその顔は、いつもの人を食ったような、嫌みたっぷりの忌々しい笑みが浮かんだ顔だった。

「休みの日なら、すっぴんだろうがなんだろうが口は出さねえけど、客先には、ピシッとしてけよ」
「し、失礼ですね。これでも日焼け止めくらいは」

嫌みと皮肉が絶妙にブレンドされた牧野の言葉に、思わず、そんな反論が吐いて出てきたが、牧野はそんな明子をけたけたと笑い飛ばした。

「それを、化粧したってレベルにしてる時点で、すでにダメだろ。バカ」

そういう牧野に、明子は余計なお世話ですと言って舌を出し、助手席のドアを開けた。
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