リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
そんな明子をよそに、父と母と姉は、怒って怒って、怒り散らして、いつもの間にやら慰謝料なるものを、男からもぎ取っていた。

百万円。

それは、まるで自分に付けられた値段のようで、明子はよけいに惨めな気持ちになった。


『そんなもの。別に欲しくもなかったのに』


家族に対して、そう言って詰ってしまいそうな気持ちを押し殺して、その金は両親に預けた。



そんな出来事から一年が過ぎたころ。

『家を二世帯住宅にしたくてね』
『あのお金、使ってもいい?』

明子の顔色を窺いながら、どことなく甘えた声で、母と姉がそう強請ってきた。

『好きにすればいいんじゃない』

なんの感情もこもっていない声で、明子は素っ気なくそう答えたが、以来、家族とはあまり顔を合わせなくなった。

決まって顔を合わせるのは、年に一度。
正月元旦だけ。
姪と甥にお年玉をあげるためだけに、明子は実家に顔は出した。
けれど、夕刻には実家を後にしていた。
義兄だけは、泊まればいいのにと、毎年毎年、何度何度も、そう言って引き留めてくれるけれど、父と母と姉は、そろそろ帰るからという明子を、必要以上に引き留めることはなかった。

ときどき、そんな家族から、一方的に電話がかけられてくることもあるけれど、直接、それに出たことは、ここ一年ほとんどない。
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