リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
笑った拍子に勢いよくボタンが弾けとんだのは、決して、服が安物のせいではない。
明子も、本当はちゃんとそれを判っている。
同じことが、今までにもあったのだから。
会社でも、ふとした拍子にブラウスのボタンが弾け飛びそうになり、周囲に気づかれないようこっそりと携帯用の裁縫セットを持って、慌ててトイレに駆け込んだことが何度もあった。

そんなことを繰り返すうちに、ボタンで留めるタイプの服は、買わないようになった。

こんな姿になってしまったのは、堕落した自分のせいだと、そう認めるのがいやだった。
服が悪いと、無意味な責任転嫁をして、自分を甘やかしていた。


(誰かに見せるような予定なんて、全くない体だしね)
(ちょっとくらい、丸くなったところで、すぐに戻せるもん)
(楽勝楽勝)


そんなふうに、自分を甘やかすためのいい訳を山ほど拵えていたその結果が、この『現実』になった。
判っていたことだけれど、明子は少しばかり打ちのめされた。


(どうしよね)
(あたし、マジで、ヤバいかもだよね?)
(文隆くん)
(あたしのことも、叱ってくれないかしら)
(あなたがいうなら、ダイエットだって、なんだって、頑張れちゃう気がするのになあ)


打ちのめされたこの期に及んでもまだ、そんな腐ったことを考えて、ふにゃりと笑っている自分に、明子は肩を落とした。


(こういうのさ)
(ダメ人間って、いうんだよね?)
(多分)
(きっと)
(間違いなく)





また、重く湿っぽいため息が、明子の口から吐いて出た。
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