リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「……失礼ですが。牧野さんの?」

牧野の名に反応するとしたらこの人物だろうと思っていた沢木が、予想通りにその名に食いついてきた。
各課の代表で参加している男たちの中でも、おそらく最年長と思われる男たちは、聞いたことのある名だというように眉を寄せて考え込んでいる。
探るような目で明子を見る沢木に、明子は笑みを湛えた顔のまま、さらりと告げた。

「牧野が、私の直属の上司になります。私は牧野からの指示で、今日の会議に参加しておりますので、社に戻れば、今日の会議の内容を、牧野に報告しなければなりません。これ以上、進捗が遅れるようであれば、次回からは牧野にも、この会議に参加してもらわなければと思っております」

沢木の目を見据えてまま、にっこりという吹き出しが付きそうな顔で、明子は言葉を続けた。

「牧野のほうから、皆様によろしくとの伝言を預かっておりますので、そのようにお伝えください」
「システム屋の姉ちゃんよ。何を訳の判らないことを」

人事課の若い社員が、明子を黙らせようとでも思ったのか、口を開き、そう言い出した途中で口を噤んだ。
沢木の嗜める声が飛んだからだ。
その声の鋭さに、牧野の名などには何の反応も見せなかった社員たちも、一様に目を見合わせ黙り込んだ。
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