リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「プレゼンは、二人でいけるのか?」
「二人で十分です。現システムの調査報告は、沼田くんが自ら志願して、引き受けてくれましたし」

牧野が何を心配しているのか察した明子は、牧野にそう告げてから沼田に笑いかけた。
明子の言葉に、牧野は一瞬驚いたように目を見開き沼田を眺め、すぐに「そうか」と嬉しそうに笑った。
沼田はそんな牧野に恐縮したように体を小さくして、それでもしっかりとした芯の通った声で「がんばります」と答えた。

「次回は、部長も参加して頂けるんでしたよね。でないとプレゼンの話も、また調整が必要になりますから、無理そうなら早めに教えてください。部長があちら様を睨んでいてくだされば、少しは大人しくして聞いてくれるかと思いますし」
「ぶ、部長、ですか?!」

明子が告げたその言葉に、沼田はその目を白黒させて驚いていた。
すでに聞いているものだとばかり思っていた明子のほうが、沼田のその反応に驚いてしまったくらいだ。

「聞いてなかった? でも、まあ、プレゼンする以上、部課長クラスの人に同席して貰わなきゃならないもの」
「それは、そうですが。だから、牧野課長だとばかり」

こういう事態だ、君島が動けなければ、最後は牧野が動くのだろうと考えていたらしい沼田に、牧野がにたりと笑い、人差し指を唇の前で立てて見せる。


-誰にも言うなよ。
 

牧野の顔には、そう書いてあった。

「部長からな。他言はするな。だそうだ。どうやら、バカ二人に、少しお灸を据える腹らしい。どうする気かは知らんが」

やや底意地の悪い口調でそんなことをいう牧野に、なにが知らんがよと、明子はこっそり毒づいた。

「次回の打ち合わせは、金曜に延ばしてもらおう。一日延ばしてもらえれば、かなり違うだろう。中途半端なプレゼンなんてしてくるな。本丸落とすくらいの物を作って、かましてこい。そうだな。木曜の午後、ここでプレゼンの予行練習な」
「延ばせますか?」

やや不安を覗かせる明子に、牧野は唇の端をにーっと持ち上げる。

「言っただろう。使えるものは、何でも使えって」

笑ったまま明子を見据える牧野の目に、明子は拳を握り締め、気合いを入れた。

「部長から、先方にお話していだだけるよう、お願いしていただけますか?」
「おう。任せろ」

そういう口で、悪巧みの相談は楽しいなと、鼻歌でも歌いだしそうな機嫌のよい声で呟く牧野に、明子と沼田を目を見合わせて、苦笑めいた笑みを浮かべた。
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