リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「で、なにを聞きたいって?」

一通りの報告を兼ねた打ち合わせが終わると、面倒くせえとでも言いたげな声でそう言って、音を立てながら首を回す牧野に、面倒くさい事態にしたのはあなたですっと食って掛かりたいのを堪え、明子は苦い薬でも飲んだように顔を顰めながら話を切り出した。

「牧野課長から窺っていたお話と、現状があまりにも食い違っているようなんですが、どういうことなんでしょうか? 現状をご存じないようでしたら、今からきっちりと、それもご報告させていただきますが?」

返答次第じゃタダじゃおかないという憤りを込めた目で明子は牧野を見据えたが、牧野は鼻を鳴らすだけだった。

「沼田。先に作業を進めてくれ」

牧野は、ちらりと沼田に目線を投げると、こっちはまだ話があるからとそう告げた。
数回の瞬きを繰り返し、沼田は牧野と明子を交互に見やって、判りましたとそう答えて席を立った。
ドアを閉める寸前で、沼田はちらりと心配げに明子に視線を投げたが、結局、何も言わず会議室を後にした。

数秒、会議室の中は静まり返り、物音一つ無い世界になった。
その沈黙を破るように、牧野は立ち上がると、明子の隣に席を移した。

眉間にやや皺が寄った顔つきに、明子も表情を固くした。

「あんまり、でかい声で話せねえから、怒鳴るなよ」
「場合によったら、殴ります」

静かで平坦なその口調に、牧野は小さく息を吐いた。

「それで気が済むなら、好きにしろ」

こんな顔、ボコられたところで困りゃしねえから、今回だけは大人しく殴られてやるよと、茶化すようにそう言って肩を竦める牧野に、明子は大きく吸い込んだ息を、静かにふうっと吐き出した。
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