リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「今のプレゼンで、少なくとも部長は、納得してくれたうえで、いいだろうって言ってくれたわ。勝ち負けで言うことじゃないけどね、でも、それでもあえて言うなら、部長にその言葉を言わせて時点で、このプレゼンは私たちの勝ちだよ。胸も張って威張れる、勝ち。私、今、仁王立ちでガッツポーズを取りたいくらいのいい気分なのに、どうして、沼田くんは、そんなふうに勝負に負けたみたいな、景気の悪い顔をしているの?」
松山が目を点にして明子を眺めている一方で、くるりと背を向けた牧野の肩が小刻みに震えているのが明子の目に映ったが、この際、それは放っておくことにして、明子は先を続けた。
「そりゃね、沼田くんのいう完璧なスピーチができれば、もっと説得力がでてくるだろうけど、そんなことに今回は神経を使わなくていいんじゃないかな?」
沼田は瞬きすら忘れたように、明子を見つめる。
その視線を、明子はまっすぐに受け止めた。
「少なくとも、今回のお客様は、ずっと、沼田くんに仕事を任せてくれていて、沼田くんの仕事を信用してくれているお客様でしょ。しかも、沼田くんは喋るのが苦手だってことも、判ってくれているお客様よね。あの若いのは口はちょっとアレだけど、仕事は間違いないからなって、今までの沼田くんを見て、そう評価してくれているお客様でしょ」
先日の打ち合わせで、沢木と沼田の間で交わさせた数少ない会話からでも、沼田に対する絶対的な信頼感が十分に感じ取れた。
それは、沼田が積み重ねてきた確かな仕事が勝ち取ったものに違いない。
明子はそう確信していた。
「今回は、お客様のその好意に甘えちゃいましょうよ。こんな急拵えのコンビで挑むプレゼンなんだもん。もう、遠慮しないで、使えるもんは使いまくって、甘えられるとこには甘えまくっちゃいましょ」
おう、そうだそうだと、笑い混じりの声で牧野がそれに加勢するように、茶々を入れる。
笹原は、面白そうに笑っていた。
松山が目を点にして明子を眺めている一方で、くるりと背を向けた牧野の肩が小刻みに震えているのが明子の目に映ったが、この際、それは放っておくことにして、明子は先を続けた。
「そりゃね、沼田くんのいう完璧なスピーチができれば、もっと説得力がでてくるだろうけど、そんなことに今回は神経を使わなくていいんじゃないかな?」
沼田は瞬きすら忘れたように、明子を見つめる。
その視線を、明子はまっすぐに受け止めた。
「少なくとも、今回のお客様は、ずっと、沼田くんに仕事を任せてくれていて、沼田くんの仕事を信用してくれているお客様でしょ。しかも、沼田くんは喋るのが苦手だってことも、判ってくれているお客様よね。あの若いのは口はちょっとアレだけど、仕事は間違いないからなって、今までの沼田くんを見て、そう評価してくれているお客様でしょ」
先日の打ち合わせで、沢木と沼田の間で交わさせた数少ない会話からでも、沼田に対する絶対的な信頼感が十分に感じ取れた。
それは、沼田が積み重ねてきた確かな仕事が勝ち取ったものに違いない。
明子はそう確信していた。
「今回は、お客様のその好意に甘えちゃいましょうよ。こんな急拵えのコンビで挑むプレゼンなんだもん。もう、遠慮しないで、使えるもんは使いまくって、甘えられるとこには甘えまくっちゃいましょ」
おう、そうだそうだと、笑い混じりの声で牧野がそれに加勢するように、茶々を入れる。
笹原は、面白そうに笑っていた。