リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「言葉に詰まったり、つっかえたりしたら、そこで深呼吸して。失礼しました、続けさせていただきますと、そう言ってください。慌てないでいいから。一呼吸して、続けてください」

ゆっくりと、でも、少しだけ語気を強くして、明子は共にプレゼンに挑む沼田へのお願いを並べていく。

「お客様から質問されたら、少々、お待ちくださいと言って、時間を頂いてください。一息ついて、考えてください。テンポ良く、ぽんぽんと答えられなくても、大丈夫。申し訳ないけどね、今いくつも出てきた牧野課長からの質問に対して、牧野課長を納得させることができる答えを用意できるほど、私の頭の中にはこのお客様についての情報は入っていません。でも、沼田くんの出した答えは間違えなく、牧野課長が望んでいた正解だったってことだけは、判りました。あの会社のことなら沼田くん以上に知っている牧野課長のことを、沼田くんはちゃんと納得させることができたのよ。それで、十分じゃない。それ以上の完璧を、求める必要なんて、ありません」

ただ明子を見つめる沼田から、明子も目を反らすことなく語り続けた。
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