リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「自信を持って、堂々としていてくださいなんて言いません。それができないから、辛い思いしてる人に、そうしろなんて言わない。ボロボロでも、汗だくでもいいです。プレゼンの間、顔を上げていられないなら、下を向いていてもいいです。私が、はったりかまして笑ってます。隣で。はったりの余裕かまして、自信満々って顔して笑ってます。でも、プレゼンが終ったら、顔を上げてください。今日も完璧なスピーチができなかったと、そんなことばかり考えて項垂れて、負け犬みたいな顔していることだけは、私は許しません。そんな態度に、どんな言い訳も許しません。最後は、顔を上げてください。こうやって、必死に仕上げたこの仕事は、胸を張って、自信を持って、お客様に誇ってください。そして、もし、お客様によく判ったよと言って頂けたなら、笑って、大きな声で、ありがとうございましたって、お客様の顔を見て、言ってください」

毒気を抜かれたというように、呆気にとられた顔で明子を見ている沼田を、明子は判ってくれたかなあというように見つめた。


(そんな、しょぼくれた顔、しないでいいのに)
(このプレゼンの予行練習は、成功したんだから)
(いい内容だって、褒めてもらえたんだから)
(喜んでほしいな。自信、持ってほしい)


沼田の肩から、するりと力が抜けいていった。
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