リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
金曜の午後。
約束の時間よりも少し早めに客先を訪ねた明子と沼田は、すでに用意されていたプロジェクターに、持ち込んだノートパソコンを接続して、動作確認などの作業を進めていた。


-部長は、出先から直接行くといっていたから、向こうで合流してくれ。


出かけ間際、牧野から小声でそう耳打ちされ、わかりましたと頷き、沼田と共に会社を後にしたが「沼田くん、行きましょう」と声をかけたそのときに聞こえた、かすかな冷やかし交じりのくすくすというような笑う声が、妙に明子は気にかかっていた。

「部長、遅いですね。そろそろ、時間になるんですけど」
「そうね。時間には正確な人なんだけどなあ」

沼田の言葉に時計を見た明子も、首を傾げるしかなかった。
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