リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「小杉さん、身長、どれくらいあるんですか?」

沼田がしげしげと小杉を見て、そんなことを問いかけてきた。
その顔には、すでに緊張の色がありありと浮かび、仕事とは関係ないような話をして、なんとか気を紛らそうとしているように見えた。

「公開しているプロフィールでは、一六七センチ」

うふふというように笑う明子に、沼田はその言い回しに首を傾げる様子を見せた。

「正確に言うと一六七.九センチ」
「それ、ほぼ一六八じゃ」
「いいの。一六七よ。だから八センチヒールの口を履いていても一七五センチよ。絶対一七五センチは超えてなんてないんだから」
「そんなに、抵抗しなくても」
「だって、木村くんなんて二言目には、デカっと言って仰け反るんですもの。失礼な子だわ」
「ウチの部の女性陣は、わりと身長が低いですからね」
「いいなあ。私も一六一とか二くらいで十分だったのになあ」
「今と大差ないような気がしますけど」
「違うの。この数センチが明暗を分けるの」
「明暗、ですか?」
「そう。女子の明暗を分けるのよ」

明子の熱弁に押され「はあ、そうですか」と頷くしかない沼田は「ああ、そうだ」と、別の話を切り出した。

「来月の忘年会。車、ありますか?」
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