リスタート ～最後の恋を始めよう～ 【前編】

唐突に思い出したというようにそう尋ねてきた沼田に「ええ、大丈夫よ」と、明子はさらりと答えた。
もし、よかったら乗っていってくださいと、そう続いていた沼田の言葉は、明子の言葉で遮られ、それに代わり、少し残念そうな声で、そうですかと続けられた。

「牧野課長が、乗ってけってね」

続いた明子の言葉に、沼田が驚いたような表情を浮かべた。

「なに？」
「いえ。えーと。あの、牧野課長って、あまり、自分の車に人を乗せたがらないって聞いたことがあったんで」
「そう、なの？」
「という話です。去年の忘年会なんかも、井上さんあたりが乗せていってほしいって頼んでいたんですけど、断られていたし」
「三課の、井上さん？」
「ええ。あの人、牧野さん狙いでウチの部にきた人だから、あの手この手でいろいろと必死なんですよ」

さらりと告げられた驚愕の事実に、明子の目は点になった。