リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
プレゼンそのものは成功と言えるものだった。
大をつけてもいいような、成功だった。
沢木からも過分なお褒めの言葉を頂け、これで君島さんの顔を潰さないですんだと、明子はにこやかな笑みを浮かべた顔で、こっそりと胸を撫で下ろしたくらいだ。

「システム屋の兄ちゃん」

今日はよくがんばったな。やれば、いくらでもしゃべれるんじゃねえか。よかったぞ。うん。
林田が沢木と話をしている間、前回の打ち合わせにはいなかった、パンチパーマが印象的すぎる、すでに還暦は過ぎているであろうと思われる小柄な男が、とことこと二人に近づいてきて、沼田にそう声をかけてきた。
明子は慌てて名詞を渡そうとしたが間に合わず、沼田にあの人はと尋ねても、沼田もときどき見かけることがあるんですが、お名前は伺っていないんですと、そう申し訳なさそうに答えた。

その男が言うとおり、本部長の登場で大丈夫だろうかと心配した沼田は、その時点ですでに手汗がびっしょりで、ワイシャツまで濡れ始めるのは時間の問題かと思うくらい緊張していたが、それでも、震える声で「できます。大丈夫です。やれます」という言葉を、自分に言い聞かせるように繰り返し続けた。
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