リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
午後八時を過ぎても、牧野も木村も戻らず、どうしたものかと、明子は時計を見ながら考えた。

「小杉。仕事片付いたなら帰って休め。今週はずっと遅かったろ」
「そうですね。……、課長と木村くん、遅いですね」
「あんがい、トラブル、デカかったのかもな。なんか、データの移行がどうのこうのって、やっかいそうな話していたからな」

牧野には残っていてくれとは言われたが、これ以上、会社に残っている理由が明子には無かった。
まあ、いいかと、そう踏ん切りをつけた明子が帰り支度を始めたところで、会社の固定電話が鳴った。
小林がワンコールで受話器を取った。

「小林です。お疲れ様です……ええ、判りました。自分も行きますか? ええ、……ええ、はい、」

どうやら牧野からの電話らしい。明子は全ての動作をピタリと止めて、様子を伺うように聞き耳をたてた。
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