リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
乗り込んだ電車は、適度な混み合い加減だった。
ぎゅうぎゅう詰めの車中は辛いが、全く人影のない無人の電車というのも、あんがい、この時間になると怖い。
まだ、新人だったころ。
顔を真っ赤にした酒臭い男性にずっと話しかけられて、かなり気味の悪い思いをしたことがあった。
そのせいか、ふいに人が近づいてくると、明子は緊張した面もちで身構えてしまう。
ある程度、人の姿がある車両の方が、明子には安心できた。
長い一日だったなあと、ドアにもたれるようにして立ちながら、明子はゆっくりと首を回す。筋肉という筋肉が、全てガチガチに固まっているのが判った。
(早く、暖かいお風呂に入って、のんびりしたいな)
(時間はちょっと遅いけど、夕飯も食べようかな)
(スープがまだ残っていたから、あとは、野菜炒め風なものでも作ろうかな)
なるべく、仕事のことは考えないようにして、帰ってからのことをあれこれと、明子は考えた。
今日の出来事を振り返ってしまうと、抜け出さない迷路に迷い込みそうで怖かった。
すっと。
無意識のうちに、右手が耳に伸びて、ピアスに触れるように、柔らかな耳朶を触っていた。
ふいに。
あの夜の、牧野を指を思い出し、頬が火照る。
いったん思い出してしまうと、次から次へと牧野のことを、考えてしまった。
顔を寄せ、耳元で囁かれた少し甘い、低い声。
頬に吹きかかった熱い吐息。
思い出すと、体中が火照りだしてきた。
だから忘れようと、また、首を回し、肩を回し、体を動かした。
体の中のその熱を吐き出すように、明子は深呼吸をした。
(有給休暇、かなり残ってるし)
(ちょっと休みとって、プチ旅行でもしようかなあ)
意味もなく、そんなことを明子は考えた。
少しだけ、牧野から離れる時間を作らないと、自分が溶けてしまいそうだった。
ぎゅうぎゅう詰めの車中は辛いが、全く人影のない無人の電車というのも、あんがい、この時間になると怖い。
まだ、新人だったころ。
顔を真っ赤にした酒臭い男性にずっと話しかけられて、かなり気味の悪い思いをしたことがあった。
そのせいか、ふいに人が近づいてくると、明子は緊張した面もちで身構えてしまう。
ある程度、人の姿がある車両の方が、明子には安心できた。
長い一日だったなあと、ドアにもたれるようにして立ちながら、明子はゆっくりと首を回す。筋肉という筋肉が、全てガチガチに固まっているのが判った。
(早く、暖かいお風呂に入って、のんびりしたいな)
(時間はちょっと遅いけど、夕飯も食べようかな)
(スープがまだ残っていたから、あとは、野菜炒め風なものでも作ろうかな)
なるべく、仕事のことは考えないようにして、帰ってからのことをあれこれと、明子は考えた。
今日の出来事を振り返ってしまうと、抜け出さない迷路に迷い込みそうで怖かった。
すっと。
無意識のうちに、右手が耳に伸びて、ピアスに触れるように、柔らかな耳朶を触っていた。
ふいに。
あの夜の、牧野を指を思い出し、頬が火照る。
いったん思い出してしまうと、次から次へと牧野のことを、考えてしまった。
顔を寄せ、耳元で囁かれた少し甘い、低い声。
頬に吹きかかった熱い吐息。
思い出すと、体中が火照りだしてきた。
だから忘れようと、また、首を回し、肩を回し、体を動かした。
体の中のその熱を吐き出すように、明子は深呼吸をした。
(有給休暇、かなり残ってるし)
(ちょっと休みとって、プチ旅行でもしようかなあ)
意味もなく、そんなことを明子は考えた。
少しだけ、牧野から離れる時間を作らないと、自分が溶けてしまいそうだった。