リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
食事をとっていた間に沸かしておいたお風呂で、一日の疲れを溶かしだしてきた明子は、うきうきとした勝者の気分で、冷凍庫にしまっておいたカップアイスを取り出した。

週に一度の体重計測は、思わずガッツポーズをしてしまったほど結果を出した。
二.八キロも、先週より体重が減っていた。
ダイエットを決意したあの夜から、三キロ以上落としたことになる。
少しハイペース過ぎたかなと、リバウンドの不安が過ぎったが、多分これから二週間ほどは体重が落ちにくくなる。
それを考えれば、体重が落としやすい時期はしっかり落とし、体重が落としにくくなる時期は
減らすことよりも増やさないことを意識していったほうがいい。
明子は、自分にそう言い聞かせた。


(あたし。やっぱりさ、やれば出来る子だったのねー)
(うんうん)


そんな自画自賛で自分を高々と持ち上げて、冷蔵庫に留めてある『関ちゃん』の切り抜きに、明子は指を組んだ手を合わせた。


(頑張ったご褒美アイス、食べさせてください)
(来週も、きっと、頑張ります)
(絶対、頑張ります)
(ホントに、頑張ります)
(はい)


そう『関ちゃん』に誓いと決意の言葉を繰り返し、明子はご褒美アイスクリームを手に取ると、ソファーに転がった。

脹ら脛を揉みほぐしながら、今週の勝因はなんだろうと考え、やはり夕飯だわねと、明子は結論づけた。
残業続きということで、夕飯は会社ですませる毎日だった。だから、少し値は張ったが、コンビニエンスストアのお弁当よりは体に良さそうだしと、牧野から教えてもらった店からスープを買ってくることが多かった。
野菜たっぷりのスープは、それだけで十分な満腹感があったので、他に食事らしい食事はとらずに帰宅した。

家に着くころには、少しの空腹感を覚えたが、たっぷりのホットミルクやチャイ風ミルクティーでお腹を満たして、深夜のテレビ番組鑑賞も封印して、できる限り早めの就寝を心がけた。

正直なところを言えば、起きていることができなかった。
肉体労働ではないけれど、一日中、頭をフル回転させているせいか、入浴するとびっくりするほど一日の疲れが出てきて、温かい飲み物を飲んでいるうちに、欠伸がひとつ、ふたつと零れだし、ベッドに潜り込むとすぐに寝息をたてていた。
そのまま、朝までぐっすりと、眠り続けた。


(まあ、間食らしい間食も、全くなかったしね)
(なんだかんだ言いつつ、会社の中でもさ、意外と歩き回っていたんだよね、今週は)
(ね? 我がおみあしさん)


ポコポコポンと、明子はタプタプの脹ら脛を叩いた。
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