リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
駅の二階にある改札口を出て、階段を下りてバス停に向かう途中。
駅の一階にある、いつもは立ち寄ることのないコーヒーショップに、明子は足を向けた。

なんとなくだけれど。
確信はないけれど。
牧野は、徹夜明けで会社にいるような気がした。
昨日のスーツ姿のままで、疲れた顔で、そこにいるような気がした。
煙草の匂いをぷんぷんさせて。
少し髪を乱して。
ネクタイは外して。

明子は、かつてよく見ていた徹夜明けの牧野の姿を思い浮かべた。


(この間送ってもらったお礼。まだ、していなかったしね)


そう、言い訳がましく自分に呟いて、牧野に差し入れるコーヒーとクロワッサン、野菜サンド、それから、自分用のコーヒーを買い込んで、明子は会社を目指した。

妙に、はしゃいでいるような気持ちには、ずっと、気付かないふりをし続けた。
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