リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
表玄関は閉ざされているが、裏の通用口の鍵は開放されていた。
ドアを開けると、開閉式のガラス戸がある。
会社から渡されているIDカードをスキャンさせ、暗証番号を入力すると、ブザー音と共に扉が開いた。
明子は、階段を静かに上がっていく。
すでに、何人か、出社している者たちがいるらしい。
姿は見えないけれど、どのフロアからも、いつもよりはのんびりしているような、そんな人の気配があった。
第二システム部の部屋の前。
気配を殺して、明子は入り口から中を覗き込んでみた。
机に突っ伏している、牧野の姿があった。
(やっぱり。帰らないで、ここで寝ていたわね)
(仕方ない人だなあ)
(こんなところで、体を丸めて寝ているなら、家に帰って、少しでも体を伸ばして、ぐっすりと寝てくればいいのに)
足音を忍ばせて室内に入り、明子は牧野の席に近づいた。
スーツのジャケットを、袖は通さず肩から羽織り、大きな体を丸め、自分の腕を枕にして、牧野は眠っていた。
その寝顔を、明子は、ただ見つめた。
出会ったころよりも、精悍な男の顔になっている牧野の寝顔を、ただ見つめた。
ぴくりと。
かたく閉ざされている牧野の瞼が動く気配に、明子はコーヒーショップの手提げ紙袋を牧野の机に静かに置いて、自分の席に着く。
パソコンの電源を入れて立ち上がるのを待ちながら、明子は買ってきたコーヒーを啜り飲んだ。
ドアを開けると、開閉式のガラス戸がある。
会社から渡されているIDカードをスキャンさせ、暗証番号を入力すると、ブザー音と共に扉が開いた。
明子は、階段を静かに上がっていく。
すでに、何人か、出社している者たちがいるらしい。
姿は見えないけれど、どのフロアからも、いつもよりはのんびりしているような、そんな人の気配があった。
第二システム部の部屋の前。
気配を殺して、明子は入り口から中を覗き込んでみた。
机に突っ伏している、牧野の姿があった。
(やっぱり。帰らないで、ここで寝ていたわね)
(仕方ない人だなあ)
(こんなところで、体を丸めて寝ているなら、家に帰って、少しでも体を伸ばして、ぐっすりと寝てくればいいのに)
足音を忍ばせて室内に入り、明子は牧野の席に近づいた。
スーツのジャケットを、袖は通さず肩から羽織り、大きな体を丸め、自分の腕を枕にして、牧野は眠っていた。
その寝顔を、明子は、ただ見つめた。
出会ったころよりも、精悍な男の顔になっている牧野の寝顔を、ただ見つめた。
ぴくりと。
かたく閉ざされている牧野の瞼が動く気配に、明子はコーヒーショップの手提げ紙袋を牧野の机に静かに置いて、自分の席に着く。
パソコンの電源を入れて立ち上がるのを待ちながら、明子は買ってきたコーヒーを啜り飲んだ。