リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「松山係長に仕切ってもらっているとこ、他所の製品から、ウチの製品に乗り換えた会社だろ」
牧野の言葉に、その客先と、今までその客先に入っていた同業他社を思い出した明子は、少し顔をしかめた。
「前に入っていたソフト会社って、あんまり評判がよくないとこですよね」
「そうなのか? 今回、初めて聞いた会社で、俺、よく知らねえんだ」
「営業にいたころですけど、ほぼウチで決まりかけてた仕事、かなり強引に持っていったことがあるみたいですよ」
明子からのその情報に、牧野はコーヒーを啜りながら「まじかよ」とぼやいた。
明子は営業部時代に聞きかじった話を思い出しながら、言葉を続けていった。
「一課のほうの話だったんで、詳細は聞いてませんけど。余所とも、そういったトラブルが多い会社みたいです。その金額でアカにならないのかって感じの見積もりを出して、かなり強引に仕事をさらっていくって。聞いたことないですか?」
「俺は初めて聞いた。多分、部長も知らないと思うな。知ってりゃ言ってくれるはずだ」
「ですよね。営業ベースでの話だから、こっちにまでは伝わらなかったのかなあ。言っておけば良かったですね。すいません」
「それはいい。とりあえず、今度の会議であげておいたほうが良さそうだな。ちと、これからは気をつけねえとダメだな、あそこが絡む仕事は」
ったく、ふざけやがってと忌々しげに舌を鳴らす牧野の様子に、これはよほどのことがあったのねと明子は肩をすくめた。
「なに、やらかされたんですか?」
「今までのデータ、ウチのシステムで使えるように加工しなきゃならないだろ。コンバート用のデータレイアウトを渡して、その形でデータを作ってくれって、ずっと言ってるのに、なかなか渡してくれなくて、ギリギリになって、やっと渡してきたかと思ったら、ひどい内容でな」
「ひどいって。どんな感じなんですか?」
「型変換はされてないわ、オーバーフローしているわ、空欄はあるわ。客さんを通してクレームを入れたら、今になって向こうさんのテーブルレイアウトを渡してきて、どうぞご自由にときたもんだ。最初、ウチでやるって言っていたのを、向こうさんがダメだって言うから頼んでいた作業だぞ。ふざけるなって、昨日の午後は、ずっと揉めていたんだよ」
「それって、お客さんだって怒りませんか?」
「カンカンだよ。金払ってんだからな。そんな真似されりゃ、金返せって話になるだろう。向こうさんは、今までかかった作業の費用だなんて言ってるらしいけどな。下手すりゃ、裁判沙汰じゃねえのか」
牧野の苦味走った顔を見ながら、やだやだというように、明子も顔をしかめるしかなかった。
牧野の言葉に、その客先と、今までその客先に入っていた同業他社を思い出した明子は、少し顔をしかめた。
「前に入っていたソフト会社って、あんまり評判がよくないとこですよね」
「そうなのか? 今回、初めて聞いた会社で、俺、よく知らねえんだ」
「営業にいたころですけど、ほぼウチで決まりかけてた仕事、かなり強引に持っていったことがあるみたいですよ」
明子からのその情報に、牧野はコーヒーを啜りながら「まじかよ」とぼやいた。
明子は営業部時代に聞きかじった話を思い出しながら、言葉を続けていった。
「一課のほうの話だったんで、詳細は聞いてませんけど。余所とも、そういったトラブルが多い会社みたいです。その金額でアカにならないのかって感じの見積もりを出して、かなり強引に仕事をさらっていくって。聞いたことないですか?」
「俺は初めて聞いた。多分、部長も知らないと思うな。知ってりゃ言ってくれるはずだ」
「ですよね。営業ベースでの話だから、こっちにまでは伝わらなかったのかなあ。言っておけば良かったですね。すいません」
「それはいい。とりあえず、今度の会議であげておいたほうが良さそうだな。ちと、これからは気をつけねえとダメだな、あそこが絡む仕事は」
ったく、ふざけやがってと忌々しげに舌を鳴らす牧野の様子に、これはよほどのことがあったのねと明子は肩をすくめた。
「なに、やらかされたんですか?」
「今までのデータ、ウチのシステムで使えるように加工しなきゃならないだろ。コンバート用のデータレイアウトを渡して、その形でデータを作ってくれって、ずっと言ってるのに、なかなか渡してくれなくて、ギリギリになって、やっと渡してきたかと思ったら、ひどい内容でな」
「ひどいって。どんな感じなんですか?」
「型変換はされてないわ、オーバーフローしているわ、空欄はあるわ。客さんを通してクレームを入れたら、今になって向こうさんのテーブルレイアウトを渡してきて、どうぞご自由にときたもんだ。最初、ウチでやるって言っていたのを、向こうさんがダメだって言うから頼んでいた作業だぞ。ふざけるなって、昨日の午後は、ずっと揉めていたんだよ」
「それって、お客さんだって怒りませんか?」
「カンカンだよ。金払ってんだからな。そんな真似されりゃ、金返せって話になるだろう。向こうさんは、今までかかった作業の費用だなんて言ってるらしいけどな。下手すりゃ、裁判沙汰じゃねえのか」
牧野の苦味走った顔を見ながら、やだやだというように、明子も顔をしかめるしかなかった。