リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
渡されたプログラムのうち、ほぼ半分、仕様を起こせた。

(さすがとしか、言いようがないわ。牧野さん)
(よくこんなのを解析できたわね)

コード体系やらなにやら、細かいところの差異はそれなりに想定していたが、データベースの構成自体が、あまりにも違いすぎていた。
どのテーブルのデータを組み合わせれば、このテーブルに落とすデータが出来るのか。
それを考えるだけで、目が回りそうだった。
命名規約も曖昧なのか、英単語が使われていたかと思うと、突然ローマ字による日本語表記になっていたり、突き合わせるだけでも大変だったことは、明子にも簡単に想像がついた。


(マスターはコードは七桁なのに、なんで、トランザクションファイルのほうは六桁の設計なの?)


そんな疑問が、尽きることなく、明子の頭の中に沸いてくるのだ。
SEとしての経験年数は一年にも満たないと言っても過言ではない明子ですら、随分と雑で素人臭い設計に見えた。
おそらく、牧野が頭をフル回転させて分析し、手書きによる仕様書もどきを、次から次へと作成をしていたのだろう。
あのスピードについていくのだけでも必至で、みなピリピリしていたと、そう言っていた小林の言葉を明子は思い出した。
確かに、仕事に全力で集中したときの牧野のスピードについていける者は、そうはいない。
昨夜もそんな様子だったのだろうかと考えて、ああ、だから木村くんを連れて行ったのかと、明子はようやくそこに思い至った。


-一晩中、喋っていた。


牧野は笑いながら、そう言っていた。
その声に、苛立ちはなかった。
むしろ、それを歓迎しているような、そんな響きさえあったと、明子は感じた。
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