リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「世間って、マジで狭いよな。びっくりなんだけどな」
重くなりそうな空気を払拭しようとしているのか、牧野は努めて軽い口調で言葉を続けていく。
しかし、明子の顔に表情が戻ることはなかった。
「仲人を頼んでいた人、相手の男の上司。その人とな、ちょっとした知り合いでな。大学生だったころ、その人の息子の家庭教師をやっていたんだ、俺。けっこうな、気に入られてさ、ウチの会社を受けるようなら話しておくよって、そんなことも言ってもらえた。まあ、けっきょく、今の会社で決めたけどさ。でも、年賀の挨拶状を送ったりくらいは、今でもしてるんだ」
仲人を頼んだ彼の上司の家には、二人で挨拶に伺った。
確か、大学生になる息子がいると言っていたような気がする。
牧野の言葉を聞きながら、あの日のことが脳裏に浮かんだ。
‐そうか、そうか、ついに結婚か。よかった、よかった。
そう言って笑い、仲人の話も、もちろん、喜んでと二つ返事で引き受けてくれた。
「お前のことを、聞かれたことがあってな。知っているかって」
牧野の声が遠い。
こんな近くで話しているのに、どこか遠いところで話しているようだった。
重くなりそうな空気を払拭しようとしているのか、牧野は努めて軽い口調で言葉を続けていく。
しかし、明子の顔に表情が戻ることはなかった。
「仲人を頼んでいた人、相手の男の上司。その人とな、ちょっとした知り合いでな。大学生だったころ、その人の息子の家庭教師をやっていたんだ、俺。けっこうな、気に入られてさ、ウチの会社を受けるようなら話しておくよって、そんなことも言ってもらえた。まあ、けっきょく、今の会社で決めたけどさ。でも、年賀の挨拶状を送ったりくらいは、今でもしてるんだ」
仲人を頼んだ彼の上司の家には、二人で挨拶に伺った。
確か、大学生になる息子がいると言っていたような気がする。
牧野の言葉を聞きながら、あの日のことが脳裏に浮かんだ。
‐そうか、そうか、ついに結婚か。よかった、よかった。
そう言って笑い、仲人の話も、もちろん、喜んでと二つ返事で引き受けてくれた。
「お前のことを、聞かれたことがあってな。知っているかって」
牧野の声が遠い。
こんな近くで話しているのに、どこか遠いところで話しているようだった。