リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
どこをどう歩いてたきたのかも、明子は覚えていなかった。
狭い路地、住宅街の中を、ぐるぐるとさ迷うように歩きながら、家に辿りついた。
店を飛び出してすぐ、背後から名前を呼ぶ声があったような気がしたけれど。
走って。
走って。
走って。
夜の暗闇に紛れて。
明子は、『声』から逃げた。

もう、なにも聞きたくないと、明子の砕けた心が叫んでいた。

だから、走って、走って。走って。

明子は逃げ込んだ。
真っ暗な。
誰もいない、我が家に。



電気をつける気にもなれず、窓の外から入ってくる街頭の明かりが差し込む部屋で、明子は膝を抱えて座り込んでいた。

降りしきる小雨に濡れて、髪も、服も、びっしょりだった。


寒さで震えているのか
悲しみで震えているのか


それさえ、今の明子には判らなかった。

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