リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
◆牧野孝平◆
久しぶりに、あの夢を見た。
最近、見ることのなかった夢を。
先輩社員の一人が、大声で彼女を呼びつけたか思うと、柄の悪いチンピラのような口調で叱り出した。
嫌な男だった。
短気で気分屋で、嫌なことがあるとその鬱屈を下の者にぶつけて憂さを晴らす、そんな男だった。
そして、必ずと言っていいほど、自分より立場の弱い女子社員を、その贄に選んでいた。
男の前に立たされているため、後ろ姿しか見えなかったが、彼女は白いその手をきつく握り締めていた。
今までの贄たちなら、とっくに泣き出しているはずだった。
けれど、強い彼女は、手を握りしめ耐えていた。
それが男の気に障ったのだろう。
ますます声を荒げて、男は彼女を怒鳴りつけた。
いい加減にしろと、何度も止めに入ろうとしたけれど、できなかった。
その男が、自分のことを面白く思っていないことを、知っていた。
自分がしゃしゃり出て、下手に庇い立てするようなことをすれば、これから彼女はことあるたびに、男の標的にされてしまうに違いなかった。
だから、止めに入ろうとする自分を、必死に押さえつけた。
ややあって。
上司がやっと止めに入って、その場を収めた。
隣の席に戻ってきた彼女の目には、今にも零れ落ちそうな涙があった。
最近、見ることのなかった夢を。
先輩社員の一人が、大声で彼女を呼びつけたか思うと、柄の悪いチンピラのような口調で叱り出した。
嫌な男だった。
短気で気分屋で、嫌なことがあるとその鬱屈を下の者にぶつけて憂さを晴らす、そんな男だった。
そして、必ずと言っていいほど、自分より立場の弱い女子社員を、その贄に選んでいた。
男の前に立たされているため、後ろ姿しか見えなかったが、彼女は白いその手をきつく握り締めていた。
今までの贄たちなら、とっくに泣き出しているはずだった。
けれど、強い彼女は、手を握りしめ耐えていた。
それが男の気に障ったのだろう。
ますます声を荒げて、男は彼女を怒鳴りつけた。
いい加減にしろと、何度も止めに入ろうとしたけれど、できなかった。
その男が、自分のことを面白く思っていないことを、知っていた。
自分がしゃしゃり出て、下手に庇い立てするようなことをすれば、これから彼女はことあるたびに、男の標的にされてしまうに違いなかった。
だから、止めに入ろうとする自分を、必死に押さえつけた。
ややあって。
上司がやっと止めに入って、その場を収めた。
隣の席に戻ってきた彼女の目には、今にも零れ落ちそうな涙があった。