リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
『女は、これだから困るんだよ。ろくに仕事もできないくせに、口だけは一人前で。なのに、叱られると、泣いて甘えやがって。使い物になりゃしねえ』

やっと、当初の目的通り彼女が涙を浮かべたことに、満足したような声でそう言って、彼女を嘲りながらふんぞり返っている男の姿に、目の前が真っ赤になった。

殴りかかりそうな衝動を、辛うじて堪えられたのは、その直後、男が部長に呼びつけられて仕事の失態を咎められていたからだった。


(泣くな)


彼女の横顔に、心の中でそう言った。
何度も何度も、言った。


(泣くな)
(泣くな)
(泣くな)
(あんな男を満足させるための)
(そんな涙は)
(流すな)


祈るようにそう言い続けた俺は、気が付くと、彼女になにかを言っていた。

前を見て。
必至に涙を堪えていた彼女は。

ゆっくりと、静かに、その目を俺に向けた。

真っ白な。
凍ったような表情で。
彼女は、俺を悲しそうに見つめていた。
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