リスタート ～最後の恋を始めよう～ 【前編】

大根半分を乱切りにして、米のとぎ汁で煮込む。
その間に手羽先を軽く洗って、熱湯を回しかけながら油を落として、その水気を切った。
それから、熱したフライパンにゴマ油を引いて、手羽先の皮に、きつね色の焦げ目がつくまで焼く。
箸が通るくらいの柔らかさになった大根を、ざるに取って、さっと水で洗い流す。
煮物用の鍋に、醤油や酒やみりんや砂糖で煮汁を作り、ちょっと厚めに切ったしょうがを入れて、煮立ったところで手羽先、大根を投入。
そのまま灰汁を掬いながら、コトコトコトコトと、三十分くらい煮込む。
そして、一晩放置。
味がじっくり染みていくのを、ひたすら待つ。


作ってみて、明子は驚いた。


（あんがい、ちゃんと、覚えているものなのね。料理って）


感心混じりに、明子はそんなことを思う。


（料理本を見なきゃ、思い出せないかもって、思っていたけど）
（こんなふうにちゃんと、あの時間は身に付いていたのね）


出来上がった煮物に満足しながら、明子はなに一つとして忘れていなかった自分に、少し驚いていた。