リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
『高杉兄弟の一週間』は、深夜らしいといえば深夜らしい、実にまったりとしたユルユルさがある番組だった。

月曜日は花屋で働く末っ子が主人公。
職場の花屋を舞台に、先輩店員にアドバイスを求める形で、花の手入れやアレンジメントのコツなどを、実演しながら紹介していく。

火曜日は小さなカフェを営む次男が登場。
毎週火曜の夜にやっている常連客からの注文という設定で、ラテアートのコツを。

水曜日は会社員の長男。
パソコン操作に不慣れな上司に教える形で、ワードやエクセルの使い方やテクを伝授する。

木曜日はレンタルビデオ店で働く三男が出る。
店内に設置してある『今週のお薦め』コーナーに並べる作品の紹介文を書き上げる形で、映画やドラマの内容を紹介する。

ドラマなのか。
情報番組なのか。
なんとも説明しがたい番組だった。


(こんな時間に『咲き終わった花は早めに摘みましょう』とか、そんな爽やかな笑顔で言われてもさあ。関ちゃんだから許すけど)
(ラテアートで綺麗なハートを描くコツを楽しそうに語られても、朝になったら忘れるよ、それ)
(いくら定年間近の上司とは言え、ワードで文字のセンタリングするくらいのことはできるってば。多分)
(そんな古い映画のDVDが平台いっぱいに並んでいるレンタルショップっていうのも、いかがなものかと思うんだけどさ。最新情報くれ)


毎回毎回、そんなツッコミを山盛りにして見ているわけだが、それでも、その顔はみっともないまでにニヤけていたりする。
テレビの中の彼らが、もしも、その姿を傍から見たら不気味に思うに違いないような、うきゃーっという照れ交じりのはにかみ笑いを浮かべて、じたばた転げまわってはクッショクをハグハグしてしまいたくなるほどに、今の明子には彼らが可愛らしくて愛しい。
そんな自分に、苦笑して呆れながらも、この八分間は、明子にとっての至福の時間だった。

そして明子とって、今や月曜日は『憂鬱な月曜日』から『待ち遠しい月曜日』に格上げされた存在になっていた。

もちろん、他の曜日とて、明子には十分に待ち遠しいものだけれど、この番組見たさ故に、仕事への集中力が上がったのではないかと思うほど、この番組の影響力は大きい。


(そんな理由で、仕事に集中できるっていうのもね)
(どうよ?)


ときどき、そんなことを思わなくもないけれど、結果オーライってことで良しとしていた。

そして、今夜は金曜日。

高杉四兄弟が全員、彼らが暮らす家に揃う夜だった。
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