リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
かつて。
淡い恋心を抱きながら、その隣にいたとき。
牧野が自分に向けてくれているその思いが、愛情なのか、友情なのか。
それが、明子には判らなかった。

牧野が他人に注ぐ愛情も友情も、どこがその境目なのか判らないほど、近くて似ている。
牧野は、誰とでもすぐに親しくなる。けれど、ある一線を越えた内側まで入り込める者は、ごく限られていた。
その一線を越えて、自身の内側に受け入れた者たちに向けられる感情が、子どものように無邪気で素直過ぎて、皆、最初は戸惑ってしまうのだ。
明子もそうだった。
牧野の周囲に、明子のような接し方を受けている女性は、他に誰もいなかったら、余計に明子は戸惑い迷ってしまったのだ。
だから、期待しては、その期待を打ち砕かれて。
そして、打ち砕かれては、また期待して。
そんなことの繰り返しに疲れて、明子は逃げたのだ。
もう、この恋心は封印するとそう決め、牧野に背を向けて逃げた先で出会った、明子を抱きしめてくれた腕の中で、明子はやっと心に平穏を取り戻した。
そうなってから、また牧野と向き合えるようになったとき、かつて、その隣にいた自分が、どれだけ牧野の特別になれていたのかが、初めて見えた。
同時に、自らその場所から逃げ出した明子には、もう入ることの出来ない特別な場所だと言うことも、悟った。

だから、再び、牧野のいる場所に戻ることになったとき。
明子は、何度も自分に言い聞かせてきたのだ。
同じことは繰り返すまいと。
そう、決めて戻ってきたのだ。
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