リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
牧野の内側には、入り込まない。
もう二度と、逃げ出さないために。
決して近づきすぎないとそう決めて、戻ってきた。

牧野も、どんなに親しく話しをするようになっても、決して、かつてのように、明子を内なる場所に入れようとはしなかった。

これでいい。
これで、いい。
そう思っていたのに。

いつの間にか、またこんなに近い場所に入り込んでしまっていた。
恋心の封印が解けて、また牧野の言動に心乱され一喜一憂してしまう場所に入り込んでしまっていた。


ため息が、出た。


かつて、明子を惑わせた最大の理由は、牧野の過剰なスキンシップにあった。
眠いと言って人の背中にもたれてきたり、酔ったと言って膝に頭を乗せてきたり。
腕を取ることも、肩を抱くことも。
牧野は躊躇いもなく、そういうことをしかけてきた。
その反面、明子を傷つけるようなことを、平気で口にする。
甘えようとする明子を、容赦なく簡単に振り払う。
そのたびに、判らなくなった。
牧野の中にあるその思いが、何なのか。
判らなくなった。
明子自身は、決して恋愛経験は豊富のほうではなかった。
あのころはまだ、正直、男性経験はキス止まりだった。
異性からの過剰すぎるスキンシップなど、どう受け止めればいいのか判らなった。
だから、もしかしたらと、そんな淡い予感に、幼い心を震わせてしまったときがあるのだ。

そして、また、牧野の指先に、触れる吐息に、甘える仕草に揺れ惑っている。
そんな自分を成長していないと笑いながら、また、ため息がこぼれた。
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