リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
◆牧野孝平◆
また氷の壁に阻まれた世界の向こうで、彼女が俺に背を向け走り出していた。
行くな、行くな、行くなと。
その壁を破ろうと、何度も拳で壁を打ち据えるが、壁は壊れない。
彼女の後姿はどんどん遠くへと消えていく。
闇の中に消えていく。
何か、声のような物音で、牧野は目覚めた。
ぼんやりと目に映る光景は、自分の家だった。
今までの出来事は全て夢だったのだろうかと、まだぼんやりしている意識を叩き起こそうと、牧野は自分の頬をピシャピシャと叩いた。
テーブルの上にある紙袋が、何ひとつ夢ではないと告げていた。
(そうだ。洗濯機を回して、風呂を沸かしていたんだっけ)
待っている間に、ソファーに身を沈めたら、また睡魔に襲われたのだと、牧野は苦笑した。
(マジで、そろそろ徹夜がきつい年に、なってきたかねえ。俺も)
いつにない疲労に、そんなことを考えた。
‐三十歳、四十歳が壁じゃないんだよ。
‐三十五歳だ。マジで三十五歳を過ぎたとたん、体も心も限界を感じてくるんだよ。
酒を飲みながら、かつて君島が牧野に延々と語った言葉を思い出す。
春がくれば、自分もその三十五歳を迎える。
‐ほんの一年、二年前までできていた無理がきつくなるんだよ。
‐なんかな、攻めようって気持ちより、守ろうって気持ちが強くなってくるんだ。
小林も、したり顔でそんなことを延々と牧野に語っていた。
正直、そのときはよく理解できなかったが、ずっとその背中を追ってきた、兄貴分二人がこぞってそう言うのだがら、そういうものなのだろうと、牧野もなるほどと、そのありがたいご高説に耳を傾けていた。
そんなことを思いながら、まだ朧に記憶している夢を思い返した。
行くな、行くな、行くなと。
その壁を破ろうと、何度も拳で壁を打ち据えるが、壁は壊れない。
彼女の後姿はどんどん遠くへと消えていく。
闇の中に消えていく。
何か、声のような物音で、牧野は目覚めた。
ぼんやりと目に映る光景は、自分の家だった。
今までの出来事は全て夢だったのだろうかと、まだぼんやりしている意識を叩き起こそうと、牧野は自分の頬をピシャピシャと叩いた。
テーブルの上にある紙袋が、何ひとつ夢ではないと告げていた。
(そうだ。洗濯機を回して、風呂を沸かしていたんだっけ)
待っている間に、ソファーに身を沈めたら、また睡魔に襲われたのだと、牧野は苦笑した。
(マジで、そろそろ徹夜がきつい年に、なってきたかねえ。俺も)
いつにない疲労に、そんなことを考えた。
‐三十歳、四十歳が壁じゃないんだよ。
‐三十五歳だ。マジで三十五歳を過ぎたとたん、体も心も限界を感じてくるんだよ。
酒を飲みながら、かつて君島が牧野に延々と語った言葉を思い出す。
春がくれば、自分もその三十五歳を迎える。
‐ほんの一年、二年前までできていた無理がきつくなるんだよ。
‐なんかな、攻めようって気持ちより、守ろうって気持ちが強くなってくるんだ。
小林も、したり顔でそんなことを延々と牧野に語っていた。
正直、そのときはよく理解できなかったが、ずっとその背中を追ってきた、兄貴分二人がこぞってそう言うのだがら、そういうものなのだろうと、牧野もなるほどと、そのありがたいご高説に耳を傾けていた。
そんなことを思いながら、まだ朧に記憶している夢を思い返した。