リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「恭子さん。毎日、お弁当を作ってくれるんですか?」
明子も恭子とは面識があり、年も近いこともあって、在籍中は親しくしていたほうだった。
ときどき、一緒にお昼をとることもあった。
「うん。そうなんだよ。ほら、このお腹だからさ。毎回、健康診断でひっかかってね。少しずつでも、どうにかしようってね」
松山は健康診断で、毎回、必ず再検査組になる常連だった。
そんな松山が結婚してからというもの、少しずつではあるけれど痩せてきていることに、目ざとい女子社員は気付いていた。
ー新婚さんって、幸せ太りするもんなんじゃないの?
ーでも、松山さんの場合は、あれ以上丸くなったらマズいでしょ
ー外食しなくなったら、痩せてきたらしいわよ
ーやっぱり、外食ばっかりって、ダメねえ
ーねえ。私も少しずつ見習おうかしら
ロッカールームで、そんな会話が交わされてたのは、いつだったか。
(恭子さん、頑張っているんだなあ)
明子は思い浮かべた恭子の笑顔に、えらいなあと語りかけた。
「松山係長。来年には、パパですもんね。まだまだ、元気にがつがつ働かないと」
さらりと飛び出した木村の言葉に、松山は照れ笑いを浮かべながら「そうなんだよ」と頷いた。
(なるほど、パパかあ)
(そりゃ、気持ちも引き締まるってもんだわね)
初めて聞いた話に「そうだったんですか」と、明子は驚きながら「おめでとうございます」という言葉を添えて、松山に笑いかけた。
「ありがとう。だから、ね、病気で倒れるわけにはいかないからさ。なんとか、成人病予備軍からは抜け出さなきゃと思ってね」
だから、和食系のダイエット弁当。
そう続けられた言葉に、明子は松山が広げている弁当に目を向けた。
はりきって作りましたという、新妻ちっくな気合満々の愛妻弁当でなかったが、焼き魚に煮物におひたし、玉子焼きと、健康的な惣菜がぎっしり詰まった、体に良さそうな弁当だった。
別の容器には生野菜がたっぷりと入れられて、野菜をしっかり食べさせようという意図が、はっきりと見て取れた。
煮物も玉子焼きも、出来合いのものではないだろう。
健康のことを考えて、味付けも薄めにして、ちゃんと手間暇掛けて作ったに違いない。
おいしそうに食べる松山の顔を見れば、それくらいのことは十分に判った。
(そう言えば……)
(栄養士の勉強を、してたんだっけ、学生時代)
それがなんでウチの会社の総務部に入ったのか、聞いたときには不思議だったけれど、そんな話を本人から聞いた記憶があった。
(いいなあ、松山さん)
(羨ましいぞ、ものすごく)
おいしそうな松山の愛妻弁当が、明子には羨ましかった。
明子も恭子とは面識があり、年も近いこともあって、在籍中は親しくしていたほうだった。
ときどき、一緒にお昼をとることもあった。
「うん。そうなんだよ。ほら、このお腹だからさ。毎回、健康診断でひっかかってね。少しずつでも、どうにかしようってね」
松山は健康診断で、毎回、必ず再検査組になる常連だった。
そんな松山が結婚してからというもの、少しずつではあるけれど痩せてきていることに、目ざとい女子社員は気付いていた。
ー新婚さんって、幸せ太りするもんなんじゃないの?
ーでも、松山さんの場合は、あれ以上丸くなったらマズいでしょ
ー外食しなくなったら、痩せてきたらしいわよ
ーやっぱり、外食ばっかりって、ダメねえ
ーねえ。私も少しずつ見習おうかしら
ロッカールームで、そんな会話が交わされてたのは、いつだったか。
(恭子さん、頑張っているんだなあ)
明子は思い浮かべた恭子の笑顔に、えらいなあと語りかけた。
「松山係長。来年には、パパですもんね。まだまだ、元気にがつがつ働かないと」
さらりと飛び出した木村の言葉に、松山は照れ笑いを浮かべながら「そうなんだよ」と頷いた。
(なるほど、パパかあ)
(そりゃ、気持ちも引き締まるってもんだわね)
初めて聞いた話に「そうだったんですか」と、明子は驚きながら「おめでとうございます」という言葉を添えて、松山に笑いかけた。
「ありがとう。だから、ね、病気で倒れるわけにはいかないからさ。なんとか、成人病予備軍からは抜け出さなきゃと思ってね」
だから、和食系のダイエット弁当。
そう続けられた言葉に、明子は松山が広げている弁当に目を向けた。
はりきって作りましたという、新妻ちっくな気合満々の愛妻弁当でなかったが、焼き魚に煮物におひたし、玉子焼きと、健康的な惣菜がぎっしり詰まった、体に良さそうな弁当だった。
別の容器には生野菜がたっぷりと入れられて、野菜をしっかり食べさせようという意図が、はっきりと見て取れた。
煮物も玉子焼きも、出来合いのものではないだろう。
健康のことを考えて、味付けも薄めにして、ちゃんと手間暇掛けて作ったに違いない。
おいしそうに食べる松山の顔を見れば、それくらいのことは十分に判った。
(そう言えば……)
(栄養士の勉強を、してたんだっけ、学生時代)
それがなんでウチの会社の総務部に入ったのか、聞いたときには不思議だったけれど、そんな話を本人から聞いた記憶があった。
(いいなあ、松山さん)
(羨ましいぞ、ものすごく)
おいしそうな松山の愛妻弁当が、明子には羨ましかった。