リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「ご飯は、玄米なんだよ」
そう言って松山が箸で指し示したご飯は、確かに茶色いご飯だった。
「玄米って、炊くのが難しいって聞くんですけど、すごいですね」
「そうなんだ。知らなかったな。これがおいしくてね。玄米にしてから、お腹の調子もいいし、よく噛むようになったから、昔みたいにドカ食いしなくなってねえ」
松山の言葉に、明子はふむふむと耳を傾けながら、玄米かあと小さく呟いた。
(そう言えば、そろそろお米が無くなるころだし)
(思い切って挑戦、してみようかな)
しげしげと玄米ご飯を眺めている様子の明子に、松山は照れているような声で言葉を続ける。
「じつはね、七キログラム、体重が落ちたんだよ、これでも。まあ、このお腹だからね、あんまり判らないだろうけど」
「そんなことないですよ。女子の間じゃ、最近、松山係長がすっきりされてきたって、ウワサになってますよ」
「ホントに。いいこと聞いたなあ。帰ったら恭子ちゃんに教えてあげなきゃ。恭子ちゃんのお陰だからね」
明子からのその言葉に、目許をしわくちゃにして嬉しそうに笑いながら、松山は照れも見せずに恭子のことを褒め上げた。
(あー、なるほどね。これか)
(この穏やかな空気感が、彼女を射止めたのか)
松山のそのふんわりとした雰囲気に、明子の顔も思わず綻ぶ。
が、それもつかの間もことだった。
明子の笑みを凍りつかせる声が、明子に浴びせられた。
「小杉も、少し見習ったらどうだ? あ?」
突然、会話に割り込んできたその声に、明子の頬がヒクヒクと引き攣った。
(不覚っ)
(一生の不覚っ)
(この人が、弁当組だったことを忘れていたなんて)
(だから、ぜったいに、お弁当なんて作ってくるものかと、春にあれほど自分にいいきかせたのに)
(どうして、忘れていたのっ あたしっ)
(バカバカバカッ)
天敵の存在に、うぐぐぐぅっと歯噛みをしながら、会議室に入った瞬間、明子を立ちすくませたその元凶に、明子はじろりと目を向けた。
そう言って松山が箸で指し示したご飯は、確かに茶色いご飯だった。
「玄米って、炊くのが難しいって聞くんですけど、すごいですね」
「そうなんだ。知らなかったな。これがおいしくてね。玄米にしてから、お腹の調子もいいし、よく噛むようになったから、昔みたいにドカ食いしなくなってねえ」
松山の言葉に、明子はふむふむと耳を傾けながら、玄米かあと小さく呟いた。
(そう言えば、そろそろお米が無くなるころだし)
(思い切って挑戦、してみようかな)
しげしげと玄米ご飯を眺めている様子の明子に、松山は照れているような声で言葉を続ける。
「じつはね、七キログラム、体重が落ちたんだよ、これでも。まあ、このお腹だからね、あんまり判らないだろうけど」
「そんなことないですよ。女子の間じゃ、最近、松山係長がすっきりされてきたって、ウワサになってますよ」
「ホントに。いいこと聞いたなあ。帰ったら恭子ちゃんに教えてあげなきゃ。恭子ちゃんのお陰だからね」
明子からのその言葉に、目許をしわくちゃにして嬉しそうに笑いながら、松山は照れも見せずに恭子のことを褒め上げた。
(あー、なるほどね。これか)
(この穏やかな空気感が、彼女を射止めたのか)
松山のそのふんわりとした雰囲気に、明子の顔も思わず綻ぶ。
が、それもつかの間もことだった。
明子の笑みを凍りつかせる声が、明子に浴びせられた。
「小杉も、少し見習ったらどうだ? あ?」
突然、会話に割り込んできたその声に、明子の頬がヒクヒクと引き攣った。
(不覚っ)
(一生の不覚っ)
(この人が、弁当組だったことを忘れていたなんて)
(だから、ぜったいに、お弁当なんて作ってくるものかと、春にあれほど自分にいいきかせたのに)
(どうして、忘れていたのっ あたしっ)
(バカバカバカッ)
天敵の存在に、うぐぐぐぅっと歯噛みをしながら、会議室に入った瞬間、明子を立ちすくませたその元凶に、明子はじろりと目を向けた。