リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
舞台は、彼らが四兄弟が暮らす一軒家のリビング。
なにがある、というわけではない。
むしろ、なにもないというのが正解だ。 
ただ兄弟が真夜中に家のリビングに集まって、末っ子が花で飾ったテーブルを囲み、三男お薦めの映画やドラマを見ながら、次男の淹れた紅茶や珈琲を飲んで、長男の買ってきたケーキやプリンなどのスイーツを食べる。
イケメン兄弟が集まった、真夜中のお茶会。
そんな内容だった。

その中で、必ず一品、テロップ入りで商品が紹介される。
それは家電製品だったり、食料品だったりと様々だが、何かが紹介される。

ただ、それだけの番組だ。
ただ、それだけなのに。
明子の中に溜まった一週間の疲れが、全て吹き飛んだ。

とりあえず、朝起きたら洗濯物を片付けようとか。
掃除機を掛けようとか。
二キロ先のスーパーマーケットまで、歩いて買い物に行こうとか。

帰ってきたときには、頭に描いたこの『明日やることリスト』の一覧に、うんざり気分で重いため息をつくばかりなのに、この八分間で、そんなどんよりとした気持ちは、木っ端微塵に吹き飛ぶ。


(よっしゃ!)
(明日のうちに、家事関係は片付けてやる!)


そんな意欲がみなぎって来る。


(でもって、日曜日は、関ちゃん祭よ!)


そんなことを考えるだけで、楽しくなる。

金曜の『高杉兄弟』は、明子にとって、お一人さまの休日を乗り切るための、なくてはならないカンフル剤だった。

その『高杉兄弟』が始まる時間になったのだ。
パンツのボタンごときに、かまけている場合ではなかった。

明子は取れかかったボタンの存在などすっぽりと忘れて、テレビの中の『高杉兄弟』を見つめた。
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