リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「課長って、なんでも知ってるんですねえ。すげー」

牧野の蘊蓄に、木村が感心したような声を上げる。

「課長の実家は、花屋だぞ」

感心しきりの木村に、本人ではなく小林がそう答えて、木村をなるほどと納得させた。

「忙しいときは、今でも、手伝いとかやらされるんだよ。店に出てて、客になんかを聞かれて、判りませんってわけいかねえから、なんとなく、あれこれ勉強しちまう」
「課長が店に立ったら、女性客が増えそうですね」
「どうかな。忙しいときだけだからな、手伝うの。増えてんだかどうか。ああ。でも、花束を抱えてると、写真を撮られたりはするな。ありゃ、なんなんだか」

木村の軽口に、至って普通の声でそんなことを言う牧野に、小林がこれでもかというくらいの呆れた笑いを頬に浮かべて、牧野を振り返った。

「課長。日本人の美徳って、知ってますかね」
「真面目とか、働き者とか」
「それもありますがね、謙虚とか謙遜とかも、覚えていただけませんかね?」

小林のご高説に、明子は吹き出し笑い「ムリムリ」と、手を振った。

「係長。自分で俺様と言う課長ですよ? 謙遜とか、謙虚とか、辞書から消してますよ」
「だな。言うだけ無駄だったな」

明子の言葉に、振り返った小林も納得したように諦めて笑った。
なんだよ、今の発言のなにが問題なんだよと、本気で不思議がっている牧野に、小林と明子、川田までもがやれやれと肩を落とし、笑った。
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