リスタート ～最後の恋を始めよう～　【前編】
「離婚って、やっぱり、最後はドロ沼になるもんなんですか？」

凍りついたのは一瞬のことで、すぐに復活した様子の木村が、興味津々という顔で、牧野にそう尋ねる。
クリクリとしている目は、面白い話を強請る子どものそれだった。
その様子に、明子はやれやれと肩を小さく竦めた。

木村や沼田が入社したころには、すでに牧野は離婚していた。
それでも、大変だったらしいよと言う話なら、彼らも聞いているのだろう。
都市伝説並みの噂話くらいノリで聞いているのだろ。
だからこそ、気安くそんなふうに尋ねられるのだと、明子はちらりと牧野の顔色を窺うように目を向けた。

いつもと変わらない飄々としたその顔からは、その心中を察することはできなかった。
その当時を知っている者は、牧野を天敵と呼んでいる明子ですら、そのことには触れちゃいけないと今でも気を使うほどに、あのころの牧野は憔悴し、それからしばらくは、目もあてられないほどにくたびれたオヤジに成り果てていた。


（小杉級の話は別としてね）
（だから、図太いって言われるのよ）
（木村くん）


明子が肩を竦めたタイミングで、松山も同じようにやれやれという表情を浮かべて、小さく息を吐いたことに気付いた明子は、ちらりと松山に目を向けた。
それに気づいた松山も明子にちらりと目を向けて、互いに、しょうがないですねえと苦笑をこぼした。


（まあ、それもこれも、身から出たサビってもんね、牧野）
（少し、絡まれていれぱいいのよ）
（ふん）


自分に向いていた牧野の矛先が、これで少しは変わるだろうと、とりあえず、一旦冷静になった明子は、またブロッコリーを頬張った。
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