リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「朝から、ちゃんとネクタイしてると思ったら」

そういうことだったのね。
明子のそう言われた木村は、えへへと照れくさそうに笑い、顔をしわくちゃにした。

「今朝、課長に報告して、部長に仲人をお願いしたんです」
「そういや、朝から会議室に入って、ごそごそやってたもんな。そういうことだったのか」

小林が目を細めて、嬉しそうに木村を見ていた。

「というわけで、小杉主任」

牧野に主任と呼ばれ、なんだろうと明子は顔を思い切りしかめる。
嫌な予感が背筋をぞわぞわと、駆け上がった。

「はい?」
「二月末の土曜の予定は、キャンセルな」

にぃっと、アクマの笑みを浮かべる牧野に、明子は眉を寄せ、次の瞬間、あーっと叫んだ。

「ひどいっ ひどいですっ、むごいっ いやーっ」

ひどいひどいひどい、バカバカと、牧野に当り散らし始めた明子に「俺のせいじゃねえぞ、木村のためだ、諦めろ」と、牧野は楽しそうに笑う。

「いやー。どうしましょう、木村くん」
「諦めてくださいっ なんだか知りませんけど、諦めてくださいっ 僕のためですっ 選択の余地はありませんっ」

うきーっと、駄々を捏ねるように言い募る木村に、明子は頭を抱えた。


(なんてことっ)
(関ちゃん、あなたが、遠くなってしまいましたよ)
(とほほー)


ぷんと、怒り顔を作る木村を見ながら、明子も負けじと拗ねたような顔を作る。
最終的に、土曜の予定を諦めなければならないのはこっちなのだから、拗ねる権利くらいはあるわと、明子は思った。
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