リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「せっかく、木村くんより若くて可愛い男の子に会えるのになあ」
「許しませんっ どこのウマの骨ですかっ」

僕を捨てて、そんな男に会いに行くなんて許しませんよと、木村は腕を組んで、更に頬を膨らませる。
明子は観念したように、机に突っ伏した。

「ああ。関ちゃん。ごめんなさい。せっかくの逢瀬を」
「関ちゃん?!」

突然。
その言葉に化学反応を起こしたように、紀子が黄色い声をあげた。

「小杉さんっ もしかして『高杉兄弟』の舞台、観に行くんですか?!」

体を起こし振り返ると、目を輝かせている紀子の顔が見えた。
その向こうでは、野木が額に手を当てて、呻いている姿も見えた。

「そうなの、でも、なんか、ここにダメって怒ってる子がいるの」

紀子の問いかけに、わざとらしく肩をがっくりと落として、明子は嘆いて見せた。

「電話が奇跡的に繋がって、取れたのにっ」
「いいなあ。私、取れなかったんですうー。一般売りも、夜中から並んだのにっ」
「もーりーぐーちー。うるせー。小杉主任。こいつの前で、その話は禁止ですっ 仕事にならなくなるんで」
「そうなの?」
「もう。煩いの、なんの。女子会で騒げっ」
「女子会?」
「あるんです、あるんですっ 『高杉兄弟』を語り合う女子会が。第一の青木さんとアイちゃんと、総務の……」

挙げられる名前に、ひゃー、なんて濃いメンバーが集まってるんだと、明子は目を丸くして驚くしかなかった。
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