リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「なあ。これ、どうやって作るんだ?」
ニンジンを箸で指しながらの牧野の質問に、明子は気持ちを切り替えて「ニンジンを千切りにして、タラコと炒めただけですよ」と、さらりと答える。
その答えに、ふうんと牧野は鼻を鳴らす。
「俺でも作れそうだな」
「作れますよ」
「ニンジンってさ、袋で買っても使いきれないんだよ」
「そうですか? 肉じゃがとか、煮物……、作りませんね」
無理を言うなとでも言いたげに、顔をしかめている牧野に気づいた明子は、「失言でした」と肩をすくめた。
「筑前煮っていうのか? 鶏肉と野菜の煮物。一度だけ挑戦したんだけど、昼から作り始めて、材料の下ごしらえが終わったのが、夕方だ。流しには、洗い物の山が出来上がっちまうし。もう、二度とやらんと決めた」
「慣れですよ。お料理なんて。数をこなせば、手際もそれなりになってきますよ」
明子のそんな励ましに「それは、判るんだけどさあ、手間のかかるもんは、なかなかなあ」と、牧野は口を尖らせた。
「なあ。アレ、食いたいな。アレ。煮豚」
その唐突な発言に、明子は唖然とした顔になる。
「食いたいって……。まさか、私に作れと? いやですよ。面倒なのに。お店で食べればいいじゃないですか」
「やだね。煮豚、煮豚、煮豚。食わせろ」
「食わせろって。食べたことなんて」
ないでしょうと明子が言い終わらないうちに、「昔、食った」と、牧野はきっぱりと断言した。
「弁当に入ってたやつ。食ったぞ」
「ホントに……、よく覚えてますねえ」
そぼろ弁当の話が出たときに、小林がそう言って呆れていたが、本当に、よく覚えているもんだわと、明子も呆れながら笑った。
だか、その後はなぜか、会話が続かなかった。
互いに、無言のまま、食事だけをしている。
そんな時が続いた。
ややあって、明子は降参というようにため息を吐きつつ、牧野に尋ねた。
意地を張って、違う話を続けていても仕方ない。
聞きたいことを素直に聞こうと、牧野に尋ねた。
ニンジンを箸で指しながらの牧野の質問に、明子は気持ちを切り替えて「ニンジンを千切りにして、タラコと炒めただけですよ」と、さらりと答える。
その答えに、ふうんと牧野は鼻を鳴らす。
「俺でも作れそうだな」
「作れますよ」
「ニンジンってさ、袋で買っても使いきれないんだよ」
「そうですか? 肉じゃがとか、煮物……、作りませんね」
無理を言うなとでも言いたげに、顔をしかめている牧野に気づいた明子は、「失言でした」と肩をすくめた。
「筑前煮っていうのか? 鶏肉と野菜の煮物。一度だけ挑戦したんだけど、昼から作り始めて、材料の下ごしらえが終わったのが、夕方だ。流しには、洗い物の山が出来上がっちまうし。もう、二度とやらんと決めた」
「慣れですよ。お料理なんて。数をこなせば、手際もそれなりになってきますよ」
明子のそんな励ましに「それは、判るんだけどさあ、手間のかかるもんは、なかなかなあ」と、牧野は口を尖らせた。
「なあ。アレ、食いたいな。アレ。煮豚」
その唐突な発言に、明子は唖然とした顔になる。
「食いたいって……。まさか、私に作れと? いやですよ。面倒なのに。お店で食べればいいじゃないですか」
「やだね。煮豚、煮豚、煮豚。食わせろ」
「食わせろって。食べたことなんて」
ないでしょうと明子が言い終わらないうちに、「昔、食った」と、牧野はきっぱりと断言した。
「弁当に入ってたやつ。食ったぞ」
「ホントに……、よく覚えてますねえ」
そぼろ弁当の話が出たときに、小林がそう言って呆れていたが、本当に、よく覚えているもんだわと、明子も呆れながら笑った。
だか、その後はなぜか、会話が続かなかった。
互いに、無言のまま、食事だけをしている。
そんな時が続いた。
ややあって、明子は降参というようにため息を吐きつつ、牧野に尋ねた。
意地を張って、違う話を続けていても仕方ない。
聞きたいことを素直に聞こうと、牧野に尋ねた。